よく後輩に、「災害救援で一番しんどかったことは何ですか?」と聞かれる。
私は決まって「家事道具の整理」と答える。
後輩は皆、「口裏合わせてるんか⁈」と思うぐらい同じ反応をする。
「えっ?」
後輩は自分が思っている答えでないことに驚いたのだろうか。床下に潜って土砂を掻き出すなどの重労働系をイメージしていたのに地味な作業で、「えっ?」っという感じに。
それとも家財道具の整理という作業がイメージできずに聞き返しているのだろうか。 家財道具の整理は簡単にいうと土砂などで汚れた家財道具をお宅の人と残すもの、捨てるものに分ける作業。確かに、行ったことがなければそういった作業があることは分からないかもしれない。
どちらにせよ、私が災害救援で一番しんどかった作業が家財道具の整理ということが想像できないのだろう。
ネツハラは誘い手が相手の災害救援などに関する知識やイメージ感を考慮せず、参加者の動員を誰に対しても均一に行うことで、災害救援の現場が想像できない人からすれば、何度も分からないことを熱く説かれる状況に置かれ(カオス)、「よく分からんけど何か嫌」と災害救援または誘い手が思われることで起きてしまっているケースがあると思う。
そのため、今回は私が見て感じた、たった一人の体験ではあるが、 災害救援で “何故” 家財道具の整理を一番しんどいと思ったかを綴り、 行ったことのない人が災害救援を想像する材料になればと思う。
まず、家財道具の整理と他の作業の違いはどこか。ズバリ、コミュニケーション。
床下やお宅の側溝の土砂の掻き出し作業で行う会話は
私たちが「こちらの作業をしてもいいですか?」と尋ね、
現地の方が「お願いします」と答えるか、
現地の方が「こちらの作業してもらってもいいですか?」と尋ね、
私たちが「かしこまりました!」と答えるぐらいだ。
それが家財道具の整理の場合、
私たちが「こちらのモノどうなさいますか?」と尋ね、 現地の方が「これは残します」or「これは処分します」と答える。 このやり取りを一つひとつのモノに対して行う。一つひとつとサラッと書いたが想像してほしい。自分の部屋にあるものが全て泥だらけになっているとする。その全てを一つひとつに尋ねるのだ。
一階にあった家財道具はほぼ全て泥で汚れ、湿った土のような臭いを放ち、お宅の外にあるガレージに固めて置かれていた。
普段、家の中にある食器棚などが外に固めて置いてある状況、本来なら各ご家庭特有の「おうちの匂い」がする箪笥から湿った土の匂いがする状況が災害の悲惨さ、それにまつわる苦労を物語っていた。
お宅にはご夫婦二人で暮されていた。お歳は私の祖父母ぐらいだろう。お父さんは腰が悪そうな歩き方をされていた。重労働系の作業は難しそうなので、お父さんと一緒に家財道具の整理をしようと試みた。
が、お父さんはネイティブでなければ聞き取れないほど、方言がキツくて断念。 そのため、そこまで方言のキツくないお母さんと家財道具の整理をすることにした。しかし私はお母さんに尋ねるのはあまり乗り気ではなかった。 お母さんは額からだらだら汗を流し、テキパキ作業していた。
だが、虚ろな表情をしていた。表情だけ見たらとてもテキパキ作業しているようには見えない。行動と表情のギャップの大きさが、お母さんの輪郭をぼやかしイマイチ掴みきれない。 私はお母さんがどのような人、どのような心境か分からない故に、漠然と家財道具の整理がお母さんを追い込むのではないかと不安だった。
不安は的中する。
お母さんに「こちらのモノどうなさいますか?」と尋ねていく回数が増えれば増えるほど、返事の機嫌が悪くなっていく。表情も険しくなる。完全に私を鬱陶しく思っているようだった。そりゃそうだろう。ただでさえいっぱいいっぱいの状態の人に何度も尋ねたら機嫌も悪くなるだろう。そのため、尋ねるタイミングに注意を払ったりもした。傍目に見て落ち着いていそうな時に、とか。
結果は変わらず。 不機嫌にさせて本当に申し訳なく思うが、聞かずに仕分けるのは不可能だ。お母さんに聞くしかない。お父さんは何言ってるか分からないから。(ごめんなさい)
これだけでも十分しんどいのだが、こういう時に限って別の問題も発生する。
お母さんに「こちらのモノどうなさいますか?」と尋ねていく回数が増えれば増えるほど、不機嫌になる上に「いらない」と答える回数も増えていった。
最初の方はしっかり考えて判断しているようだったが、後半は投げやりだった。
その様子を見ていると本当にお母さんがいらないと思っているか不安になる。
私はお母さんを不機嫌にしながらもいる、いらないかを尋ねていった結果、お母さんの「いらない」を信用できなくなるという状態になった。カオス。
【つづく】
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【この記事を書いた人】
横谷謙太朗
大阪東大阪クラブ、近畿大学、4年
28期減災ファクトリー西日本工場長
1年生時に災害救援活動に参加し、その現場での経験から防災・減災に目覚める。その後、防災士の資格を取得したほか、クラブでの減災事業の実施などに取り組んできた。 好きな歌手誰?と聞かれた時に本当はスガシカオだが、それではハネないのでKing Gnu と答えがち。
※減災ファクトリーとは
①減災についての知識を持つ人をどんどん生み出していく場
②子ども向け防災プログラム実施を形にしていく製作所
という2つのメッセージが込められたチームです。
様々なコンテンツやイベントを設置しながら、“減災”の考えと行動の普及を目指して活動しています。
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