減災コラムVol.002 台風15号被災地で感じたこと②

 「これが台風での被害だというのなら、もう日本に災害から逃れられる場所はないな」

 現場で見た光景を前に、まず思いました。津波なら内陸部、地震なら地盤のいい場所、水害なら高台、土砂崩れなら平地と、災害リスクの低い場所を選んで住む、という究極解が瓦解した瞬間でした。 


2階の屋根が引きちぎられたようになくなっている家。漁船の船橋だけが港から離れた空き地に転がっている。ビニールとガムテープでリアガラスを目張りした傷だらけの車。屋根や壁が破壊され、雨漏り補修が必要な家屋。ライフラインの途絶だけでなく、住環境への被害、生活の足や糧への被害といった目に見える被害が至る所に散見される街。



ブルーシートによる応急補修などの対応が急がれていますが、数が多い、そもそも張ったことがない、張り方が拙いため雨漏りを防止できていない、その後の風雨ではがれるなどで、張り直しが必要な家屋も多いです。 カビの発生や躯体の損傷という、じわじわと被害を拡大させる要因に対して、打つ手が間に合わない。後手に後手に回っています。  


大規模な自然災害が発生したら、公助は見込めない、自助・共助で乗り切ってほしいとよく聞きます。近年多発する自然災害のおかげ(?)で、市民も自分たちで何とかできるようにと、備えや対策、防災訓練などに力を入れている人々も少なくありません。 だからと言って、「行政側が備えをしなくていいという理屈は成り立たないのでは?」と疑問が疑念にかわるほど、「屋根上案件」と呼ばれる家屋復旧に対する公助の脆弱性が目立ちすぎる結果となっています。 


そもそも、熊本、鳥取、大阪府北部の地震災害における瓦屋根被害とそれに対するブルーシートによる応急補修の必要性や専門性は、われわれ災害救援活動にかかわるものであればだれもが認識しています。そして、従事可能な人材を育成し、知見を共有し、市民に対して啓発をしている団体は少なくありません。しかしこれは、民間であり、自助・共助であるのです。


では、公助はどうなのでしょうか?

大阪府北部から1年以上。「屋根上案件」のお宅が今どうなっているでしょう?

初動の対応の遅れが、家屋=居住・生活環境をどれだけ損傷させ、地域福祉案件として地元行政予算を圧迫する結果につながっているのか。過去の被災地から公助側が何を学び、備えていたのでしょうか。このまま首都圏で地震災害が起きたとき、到底対応できるとは思えない現実に愕然とします。 




「自衛隊員がブルーシートを張る」 

このニュースを聞いて、どれだけの地域の方が安心したでしょう。しかし、当然ながら自衛隊員はブルーシート張りの専門家ではなく、ましてや初めて屋根に上る隊員ばかり。申し訳ないが、自衛隊員が張ったブルーシートがはがれ、その張り直しを技術系NPOが行っていたことを、命令権者はご存じでしょうか。 もし、自衛隊による支援を考えていたのであれば、公務の一環として張り方講習会や屋根上作業の安全対策について、事前の備えとして隊員に学習させる機会は本当になかったのでしょうか。 民間による高所作業者や有志の消防士に対する講習会は、昨年の大阪府北部地震以降全国で開催され、今回の被災地域でも「ボランティア」として開催され、自衛隊員に対しても「無償」で、民間の知恵と技術が提供されています。 


生活再建支援の法制度に対する行政職員の学習はどうでしょう。 

罹災証明書申請窓口で「これが受け付けた証明です。査定に時間がかかるから、写真を撮って、先に業者に修理してもらってください。見積もりも取ってください」とA4一枚の“申請受け付けました”の紙。屋根が吹き飛び、連日の雨で家財や室内はぐちゃぐちゃ。一階まで雨漏りとカビが生え、修理どころか減築して平屋にするか、いっそ解体するかで迷っている被害のお宅。「修理しないと罹災証明書ってもらえないの」と、不安そうに聞いてくるお宅の人。 


上からの通達待ちとはいえ、膨大な数をこなさなければならないからとはいえ、あまりに機械的で無機質な対応。窓口の職員自体、どんな被害区分があるのか、その一般的な基準はなんなのか、それに対応する支援制度、生活再建に向けての選択肢の数々を知らず、ただ受付作業をこなしている現実。


被災された方は自分が置かれた状況からの生活再建に向けて、どんな選択肢があるのか、どんな支援の可能性があるのか、その話を聞いただけでも、涙を流すほどほっとする。そのくらい疲弊しているというのに。地域住民の声を役場に伝え、発災から15日後に、ようやく住宅・生活相談窓口が罹災証明窓口とは別に開設されました。 



そんな中、多くの災害ボランティアが汗をかいています。もう一度頑張ろう、前に進もうという元気を取り戻すきっかけになっているとも思います。

しかし、生活再建に向けた見通しや、希望につながる支援制度に対する情報は、待ちの姿勢では手に入らないのも被災地における日常です。そういったお手伝いができる、専門性のあるボランティアやNPO・NGOも支援活動を行っていますが、ここまで広域になると圧倒的に足りません。さらに、住家の損傷の応急処置は報道されている以上に遅れ、毎週のように降る雨でその被害はゆっくりとですが、確実に広がっています。技術系のNPOだけではどう考えてもまかないきれません。


こうしたことに対する公助の備えが、現段階では満足に期待できない以上、自助と呼ばれる備えでしか乗り切れないことがよりはっきりとしました。今後ますます起こるであろう、広域災害に対して、個々人、家庭単位での想定をさらに広げていくことが大事になっていきます。 


災害の種類を問わず、もしもの備えの中に、法制度や支援制度について、生活再建に向けたロードマップを一度考えておくこと、学んでおくこと、そのほか過去の被災地で行われた様々な支援策事例を調べておくことが、個人、家庭、地域レベルで必要になってきたのかもしれません。

「法の下の平等」は「法律・制度を知るものから救う」ということなのです。 



この記事を書いたひと

IVUSA危機対応研究所 所長、IVUSA 理事  宮崎 猛志 

 【地域密着型災害救援家】  

平時には、地域防災や危機対応に関する講演やワークショップの運営、応急救命講習の普及に努めている。国士舘大学防災・救急救助総合研究所非常勤研究員、世田谷区防災会議専門部会員、ちよだボランティアセンター運営委員、せたがや防災NPOアクション代表、その他災害VC運営委員、災害NPOネットワークメンバー等


災害救援や地域防災に関する講演やコンサルティングも請け負っています。

ご興味ございましたら以下よりご連絡ください。 

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