減災コラムVol.001 台風15号被災地で感じたこと①

IVUSA危機対応研究所の宮崎猛志所長による減災をテーマにしたコラムの連載が始まりました。最初は、千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号についてです。





9月9日に千葉市に上陸し、茨城県沖に抜けた台風15号の接近・通過により、多くの地点で観測史上1位の風速となる記録的な暴風が発生。電気・ガス・水道といったライフラインの供給が広域、長期間にわたって停止することによる大量避難民の発生という、これまで経験したことのない「在宅避難支援」と、それに対する脆弱な備えが顕在化しました。房総南部・西部を中心に暴風による住家被害も多く発生し、2012年に起きた筑波の竜巻災害と、2018年に起きた大阪府北部地震の瓦屋根被害が合わさったような複合型の災害が広範囲で発生しています。 


首都圏にお住まいの方々にとっては、近年全国で起きている風水害や土砂災害よりも、直下型の地震にアンテナを張っていると思います。しかし、今後台風はますます強大化すると予想され、長期にわたるライフライン途絶下の在宅避難生活が全国どこでも免れないことが今回の被害でわかりました。 また、過去教訓とする大きな地震災害は春、秋、冬に起きています。9月とはいえ、まだまだ夏の気候の今回の災害からは、全く違った被災の物語を読み解かなければならないでしょう。  



■今回の被害から学ぶこと

今回の災害から改めて考えなければならないのが、夏季の長期にわたるライフラインの途絶の中、在宅避難をどうやってしのいでいくのかということです。

熱中症の危険指数が高い中、エアコンが使えず、物流がストップして物不足の中、冷蔵庫も使えず、排せつ物も処理できず、風呂やシャワーも使えず、普段当たり前に享受していた文化的な生活が突然ストップし、いつ元に戻るかもわからない日々を過ごしていく…。  


一方で、学校や会社は被害がなく、比較的早い段階で通常に戻る。車や電車で移動すれば1時間程度で普通の日常が営まれている。そんな日常にアジャストしていかなければならないが、生活圏は被災したまま。

そんな環境での先の見えない生活で、いったいどんな困りごとが起き、それを想定して今ある備えをどうバージョンアップしていくのか、今回の台風被害から教訓にしていくことが必要ではないでしょうか。

 


■災害から生き抜いた先に

「飲み水は何とかなったが生活用水がどうにもならなかった」

「蒸し風呂のような室内で熱中症になりそうだった」

「電波もなくラジオ以外情報が全く入らなかった」

今回、被災地域で聞いた声です。 


飲み水があるからいいだろう。家で避難生活できるからいいだろう。ラジオで情報取れるならいいだろう。

紹介した被災地の声を見て、被災しているのだから当然では?と思った人もいるかもしれません。

しかし、便利で快適な生活が日常になっている我々にとって、蛇口をひねれば水が出る、スイッチを入れればエアコンが使える、スマホでいつでも情報が取れる。こうした当たり前になっていることが突然失われたら?


「災害時なんだから最低限あればいい」といいますが、その最低限はもし自分が当事者だったら、どこまで引き下げられますか?そのラインを何日間耐えられるでしょうか?





■生きるためだけの水と食料では、命は繋げられても心は繋げられない

一見被害も目立たず在宅での避難生活が送れるが、豊かさや便利さを享受できない環境は、「命が助かっただけでよかった」「周りもみんな一緒だから助け合わなければ」という連帯や共助の視点で自らを鼓舞することなく、「まさか自分が」「こんなことは初めて」という茫然自失から、「助かった」という幸福感を経ず、「なぜ自分たちのところだけ」「あそこだけ優遇されて」「いつになったら復旧するんだ」という、何から手を付ければいいかわからないことへの妬みや怨嗟に転換されていったように思います。


今回の台風災害から教訓にするべきは、地震・台風といった自然現象にかかわらず、突然文明から切り離された在宅避難生活に対する備えをどうしていくのか。そして、こうした広域、長期間の被災は都市圏などの人口密集地帯で起きた場合に、想像をはるかに下回る支援体制しか見込めないということではないでしょうか。


 今一度、各家庭が自助の想定の見直しに迫られていると感じてなりません。 




【ミニコラム】きょうから備えよう!身近なもので出来る防災

いつくるかわからない災害に対し、最も重要なのは私たち自身の日頃からの備えです。
今回は身近なもので出来る災害対策をご紹介します。


▷ツナ缶ランプ

油漬けのツナ缶とティッシュだけで作る簡単オイルランプです。ランプとしての役割を終えたあとのツナ缶は、いつもどおり美味しくいただくこともできます。




▷サラダ油ランタン

ティッシュペーパー、アルミホイル、サラダ油とキッチンにあるもので出来る簡単ランプです。作り方は以下を参照ください。



▷家具転倒防止対策

近年発生した地震でけがをした原因を調べると、約30〜50%の人が家具類の転倒・落下・移動によるもの。家具は転倒だけではなく、落下や移動にも注意が必要です。



この記事を書いたひと

IVUSA危機対応研究所 所長、IVUSA 理事  宮崎 猛志

【地域密着型災害救援家】

平時には、地域防災や危機対応に関する講演やワークショップの運営、応急救命講習の普及に努めている。国士舘大学防災・救急救助総合研究所非常勤研究員、世田谷区防災会議専門部会員、ちよだボランティアセンター運営委員、せたがや防災NPOアクション代表、その他災害VC運営委員、災害NPOネットワークメンバー等


災害救援や地域防災に関する講演やコンサルティングも請け負っています。

ご興味ございましたら以下よりご連絡ください。

0コメント

  • 1000 / 1000