オンラインで子どもとつながるひとしずく 2年間を通して見えてきたもの

日常がコロナ禍の影響を受けるようになってから早2年。

Withコロナだからこそ生まれ、できるようになったことがあり、オンライン学習支援もその一つです。



▼開始当初の記事はこちら


2022年5月25日現在、メンバー大募集中です!

また、隣接領域である生活困窮世帯の子どもへの学習支援事業についても、大阪府泉大津市での対面参加メンバーを、こちらも大大募集中!ですので、気になった方はぜひ、会員ページ>参加する>各エントリーページをご覧ください。



■改めて、はじまり

コロナ前には首都圏・近畿圏から離れた土地にある児童養護施設の子どもたちの支援は、年に2回と物理的限界があるものでした。それでも、学生たちと過ごす時間は子どもたちの成長と回復にとってとても大きな効果のある活動でしたが、やはり限界もあります。


児童養護施設の子どもたちの入所理由で多いのは、虐待。それ以外の理由もありますが、家庭で養育することが困難であるがゆえに児童養護施設で保護されているわけなので、児童養護施設を出れば親に頼らず生きていくことを求められる子どもが多くいます。


将来自立をしていかなければならない子どもたちの生きる力を育むにあたっては、日常的な支援を必要とする【学習】という側面はその基盤にもなること。

しかし、年2回では学習の支援は難しかったというのがコロナ前でした。


そうした中で、授業や会議などでWeb会議ツールの活用が広まってきた2020年4月。
オンラインでの週に1回の学習支援の準備を始め、6月に開始をしました。


物理的距離によらず日常的な支援をすることができるこの活動は、社会がコロナ前と同じように戻ったとしても、継続していく必要がある。むしろ広めていく必要があるのではないかと強く感じています。



■2年間で見えてきた、支援が生みだすもの

ここではそう思うに至った、2年間の活動を経て見えてきた、定期的な支援が子どもたちにもたらす効果を4つのポイントで事例を交えながら紹介します。

(タイトルの由来は最後のまとめをご覧ください!)



①施設に保護されるまでの間の学習の抜けをちょっとずつ取り戻す

支援をしていて気づいたのは、「2年生から4年生の学習がすっぽり抜けている5年生」といった風に、学習の空白期間が存在する子どもたちの多さです。


施設に保護されるまでの間、ネグレクトやヤングケアラー化など家庭環境の影響を受けて、学習に集中できなかったり、そもそも学校に行けなかったりするということは、考えてみれば想像に難くはありません。


そうした空白がある場合、特に積み重ねが必要となる、算数・数学では大問題。施設で生活するようになって学校に行くようになったとしても、前の学年の単元を習得できていなければ、自分の学年の勉強はまったくわからなくなってしまいます。


当然、施設内でも、学習に追いつくための学び直しのサポートも大切にしていますが、やはり、多くの子どもたちを見る職員さんにとっては難しい側面もある。そうした中で、私たちの支援が、週に1回だけれども、だからこそ新鮮な気持ちで、ちょっとずつ、学習を取り戻していくということにつながっている子どもたちがいます。



②学習意欲が高まり学習習慣が身についていく

数年間の空白の期間があり、学校で教えられることがわからなければ、勉強がおもしろくないのは当然でしょう。

ましてや、点数が付き、できたかできなかったがはっきりするテストで、はっきりと、「あなたはできていない」と示されますから、意欲は下がりやすい(もちろん、課題を見つけるためにも必要なことです)。

そうしてより勉強をしなくなれば、更にわからなくなり、点数も上がらないという負の連鎖。


ある子どもさんは、学習の空白期間があった中で、日常の学習も職員さんがついていないと取り組めないという状態だったそうです。
しかし、オンライン学習支援に参加して半年たった頃には、劇的な変化が現れました。

1人で勉強に取り組むようになり、さらには、体調が少し悪く学校を休まざるを得なかった時には自主的にワークに取り組むようになったとのこと!

今では好きな単元もできて、できることもどんどん増え、学校の先生からも「この1年間ですごく成長した」と言ってもらったようです。


これは、学び直しの支援の中で、正解するごとに賞賛され、間違えてもわかるまで少しずつ状態に合わせて寄り添いながら教わって、できることを増やしていったこと。そして、学習以外の会話も含む場面での学生との関係性の深まりも大きかったのではないかと感じています。



③生きるために必要な力をちょっとずつ獲得していく

中には、知的障害や発達障害など、特別なニーズを持つ子どもさんもおり、時計の読み方やお金の数え方などを学ぶという支援もしています。

時計を読む、お金を使えるようになる。これらは、社会生活を送るにあたってとても重要なファクターであることは、容易に想像できるのではないでしょうか。

しかし、その特性により、着実にだけれどもゆっくりとちょっとずつ、スキル習得をしていきます。

できると思った次の回にはできなくなっていることもありますが、行きつ戻りつ、根気よく、そしてその子の状態に合わせて寄り添いながらすることが大切な支援です。

もちろん施設内でも、そして学校でも学習していますが、根気がいるからこそ、なかなかやり切れていなかったり、難しかったりする部分があります。


そうした中で、週に1回、学生とのコミュニケーションも楽しみにしながら、画面を通して実践的な形で学習に取り組む支援をしてきました。

ある子どもさんは、特別支援学級の小学2年生。時計の勉強を始めた当初はほとんど読むことができない状態でした。

支援の中でちょっとずつ読み方を覚えるとともに、「今日は何時に朝ご飯食べたの?」といった具合に日常と結び付けていくことで興味が強まっていきました。そして、8か月経過する頃には完ぺきに読めるようになっていました✨



④他者とコミュニケーションをする方法を見出していく

学習支援だからといって、「学習」だけに意義があるわけではない、ということも見えてきました。

特に「他者との関わり方、関係性のつくり方を学ぶ」という基礎的ソーシャルスキルを得る場としての意義と、効果はとても大きいと感じています。


施設に保護される前は家庭とともに孤立していたり、施設に保護されてからも、保護前の経験の影響など様々なことにより、施設外の人と関わる人が少なかったり。そうした背景から、特に日常生活を共にしていない他者とのコミュニケーションに慣れていないという子も多くいます。

しかし、子どもたちの将来的な自立を考えると、他者とのコミュニケーションに慣れること、関わるためのセルフコントロールや自己開示方法を覚えることはとても大切な要素です。


ある子どもさんは、コミュニケーションへの緊張がとても強く、調子を崩したときにセルフコントロールをするスキルがまだ身についていないこともあって、支援開始当初はお休みにしたり、中断したりということも多くありました。


しかし、半年ほどちょっとずつですが、コミュニケーションを取る時間が増え、今では学生とお話をすることをとても楽しみにして、参加してくれています。また、調子を崩したときに自分でコントロールし立て直す、コミュニケーションの中での反応速度が上がるなどの変化が見られ、その成長した姿を職員さんとともに心から喜んでいます。



以上、これまでの2年間で見えてきた、子どもたちの状況であり、定期的な支援をするからこそできることと感じたポイントです。


「学習支援」という名ですが、学習だけではなく、その関わり全体が子どもたちの未来につながっている、という様子が少し見えたのではないでしょうか。



■難しさと大切さ

児童養護施設は多数の子どもたちが集団生活を送る「家」であり、だからこそ感染拡大リスクは高く、新型コロナウイルス感染症のような感染症対策には慎重にならざるを得ません。

また、子どもたちの支援ニーズは多様かつたくさんありますが、子どもたちを守るためにもクローズドにならざるを得ないという側面もあります。


でもだからといって、支援をしなければどうなるでしょうか。

子どもたちの未来に。ひいては私たち社会全体の未来に、良い影響は与えないのではないでしょうか。

子どもたちが置かれた環境はたいてい、子どもたちが選んだものでも、子どもたちのせいでもありません。


シビアな生育環境から子どもたちが保護され、回復し、生きる力を身に着け、自立し、社会を支える一人になっていく。

社会の一員となっていくわけですから、これは子ども一人の人生のことであるとともに、それだけではなく、様々な面でその周りにも多かれ少なかれ影響を及ぼすことです。


選択権なく置かれた環境から、

学習ができず、結果学歴が低くなり生活が安定しなくなる。

「がんばったらできるはずだ」とは思えなくて、可能性が狭まっていく。

うまく周りとの関係性をつくれず、誰にも頼れず孤立し、苦しみ、ともすれば犯罪に巻き込まれていく。

そんな未来があり得てしまう社会は果たして、明るいのでしょうか。


さらに、ともすれば「運の悪さ」と言われるようなことから、転げ落ちるように貧困に陥り抜け出せなくなる、ということもある現代の日本においては、ことさら、他人事ではないのではないでしょうか。


▼児童養護施設退所後の困難についてはこちらがまとまっています




▼あっけなく貧困に落ちる日本の実態について

特に構造的要因を掘り下げるのがメインの記事ではありますが、「かつて十分な世帯収入があった人たちが、あっけなく貧困に落ちているケース」にも触れられています。



■ひとしずくを落とす人を増やすこと

『ハチドリのひとしずく』という南米アンデス地方に伝わるお話があります。

今回紹介した児童養護施設の子どもの支援や、生活困窮世帯の子どもへの学習支援はこのハチドリがしている行動に似ていると感じ、なんだかシンパシーを感じるお話です。


▼ハチドリのひとしずくについて

(検索すると全文掲載されたページが出てきますのでそちらもどうぞ)

ハチドリのひとしずく 辻信一/監修 | ノンフィクション、学芸 | 光文社

これは、ちいさな力の大切さを教えてくれる 南米アンデス地方の古くてあたらしいお話です。 森火事に一滴ずつ水を運ぶハチドリに対して、森から逃げた動物たちは「そんなことして何になるのだ」と笑います。ハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と答えました……。 坂本龍一さんもハチドリの物語が大好きです! 「このハチドリの話は美しすぎて、ときどき嗚咽で声が詰まって、話しができなくなってしまう……」 中嶋朋子さんも推薦します! 「ヒトシズク、それは思っているより、ずっと大切なものなんだ」 他にC.W.ニコル、セヴァン・スズキ、関野吉晴、ワンガリ・マータイ(ノーベル平和賞)…… 〈内容抜粋〉 「金の鳥――クリキンディ」について ぼくと仲間たちは、クリキンディのお話を南米のアンデス地方に住む先住民族キチュアの友人アルカマリから聞いて、強く胸を打たれました。そして、ぼくたちにできることはいったいなんだろう、と考え始めました。最初に思いついたのが「そうだ、このハチドリの話をひとりでも多くの人に伝えることならできる」ということでした。それからぼくたちは、ひとりひとり色々な機会にこの話を語り伝えてきました。そんな思いのひとつひとつを、いまこうして一冊の本としてまとめることができました。 この物語の続きを描くのはあなたです。 辻信一(つじ・しんいち) 文化人類学者、環境運動家。16年の海外生活を経て、1992年より明治学院大学国際学部教授。100万人のキャンドルナイト呼びかけ人代表。カナダ、エクアドル、ミャンマーなどをフィールドに調査、環境活動を展開。1999年、ナマケモノというスローな動物の生き方をヒントに、持続可能な社会や暮らしへの転換を目指す「ナマケモノ倶楽部」を設立、その世話人を務める。環境共生型ビジネスにも取り組んでいる。著書に『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社)、『スローライフ100のキーワード』(弘文堂)、『スロー快楽主義宣言!』(集英社)など、訳書にセヴァン・スズキ著『あなたが世界を変える日』(学陽書房)などがある。

www.kobunsha.com


私たちが支援しできることは、山火事にかけるハチドリのひとしずくの水ほど、小さな小さなことかもしれません。

しかし、どんなに小さなことであったとしても、「私は、私にできることをしているだけ」と信念を持ちひとしずくを落とす人が増えていけば、変わるものがあるかもしれません。


置かれた環境を家庭のせい、個人のせいだけに帰結させず、社会で守っていくこと。

それを、感染症等社会状況の変化によらず、継続をしていくこと。

それがもたらすかもしれない一人ひとり活き活きと生きる姿は、きっと、安全安心で豊かな社会につながっていく。


興味がわいた方はぜひ、メンバーエントリーをお願いします👐

共に、ひとしずくを重ねていきましょう◎




この記事を書いた人

IVUSA事務局大坪英里奈

IVUSA17期卒、2022年5月末まで専従職員として関西に勤務し、子どもの教育支援事業や三重県熊野市での地域活性化活動を担当。プロジェクト・組織マネジメントでの業務分野としては“アド”をこっそり担当しつつ、学生組織運営のサポートもしてきた。

2022年6月からは矯正教育施設で再犯防止のための更生支援の仕事に就く(本記事を書いている5月22日時点予定)。

(写真:熊野での活動時に学生が撮ってくれたなんかええ感じの写真)



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