コロナ禍で「国際ボランティア」をどうしたらいいか?

私はIVUSAではフィリピンのプロジェクトを担当しています。

今でも覚えているのは、2020年2月29日から7次隊が始まるはずだったのに、その前日にまさかのフィリピンからの受入不可の連絡。結局、2019年の夏以来フィリピンには行けていません。IVUSAとしても現在、2020年3月のカンボジアのプロジェクトが最後の「海外ボランティア」になっています。

2020年3月のカンボジアでの学校建設活動
たぶん皆さんの国際協力の標準的なイメージでは。


国際ボランティア学生協会」なのに、海外でのボランティア活動が2年できていません。オミクロン株の急拡大を見ても、2022年度も再開できるかどうか微妙な状況と言えるでしょう。

一方、コロナにより格差が拡大し、社会の中でぜい弱な立場に置かれている人たちの状況はより悪化しているのも事実です。ここでは、コロナ禍の中で、IVUSAの5本柱の一つである「国際協力」をどう進めていけばいいのかを考えるきっかけにしていただければと思います。


さて、改めて「国際協力」とは何でしょう?

JANICというNGO(非政府組織)のネットワーク団体が発行している『NGOダイレクトリー』には以下のように定義されています。

海外・国内を問わず、地球的規模の課題(開発・人権・平和・環境・感染症対策など)にとりくむこと。

この定義だけでいえば、海ゴミ問題に取り組んでいる環境保護のプロジェクトも、地域の発展のための地域活性化の活動も「国際協力」に含まれそうです。


JICA(独立行政法人国際協力機構)はもう少し具体的に、「国際社会全体の平和と安定、発展のために、開発途上国・地域の人々を支援すること」と定義しています。こちらの方が分かりやすいかもしれませんね。

https://www.jica.go.jp/aboutoda/whats/cooperation.html


しかし、先進国内の格差が拡大している中で、「先進国が途上国を支援する」という考え方自体が、先進国内で理解を得にくくなっていますし、支援すべき人は途上国にだけいるのではないというのが「誰も置き去りにされない」というSDGsのコンセプトです。


JANICの定義にもあるように、国内でも国際協力はできます。学校に行けないカンボジアの子どもはカンボジアにだけいるのではありません。日本でも支援を必要とする、外国にルーツを持つ人たちがたくさんいます。IVUSAが大切にする「現場」(直接的な人と人とのつながり)という観点からも、日本国内の外国人支援を始めていったらどうでしょう。


ということで、在日外国人の現状や課題についてまとめてみました。



■在日外国人の数・国籍

出入国在留管理庁が昨年の10月に発表した最新統計(2022年1月19日時点)では、2021年6月末の在留外国人数は、282万3,565人で前年末に比べ6万3,551人(2.2%)減少。日本の全人口に占める割合は2%強です。



国別で言えば、ベトナムとネパールのみが増加。ベトナムが韓国を抜き2位になりました。

在留資格の内訳は以下のようになっています。詳しくは政策の話のところで。

(1)永住者 817,805人
(2)技能実習 354,104人
(3)特別永住者 300,441人
(4)技術・人文知識・国際業務 283,259人

(5)留学 227,844人

これらのデータの出典→ https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00017.html 


ただ、3世代前から日本で暮らす世帯も、昨日来たばかりの世帯も「外国人」としてカウントされており、置かれている状況も多様になっています。



■どんな課題があるのか?

かなりざっくりとですが、以下のようにまとめてみました。


(1)技能実習生の労働環境

劣悪な労働環境の中、低賃金で働かざるを得ない状況があります。法令違反や人権侵害が続くこの制度は、海外からも多くの批判を受けています。

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20210912-00257848 

2月27日にこのテーマにソーシャルサロンを実施しますので、興味ある方はぜひ参加してください。〉


(2)難民・オーバーステイの人たちの基本的人権と治安維持

スリランカ出身のラトナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさんが、2021年3月に名古屋出入国在留管理局において亡くなるという痛ましい事件がありました。難民認定申請が却下された外国人の施設収容の長期化や、収容施設内でのオーバーステイの人や難民申請中の人に対する人権侵害が大きな問題としてクローズアップされています。

一方で、海外の犯罪組織の尖兵となっている人たちをスクリーニングし、社会治安を維持するということも必要です。


(3)地域住民とのコミュニケーション不足(社会的孤立)

皆さんも海外で生活するということを想像してみてください。プロジェクトでもいいのですが、言語に自信がないとどうしても日本人同士で固まってしまうと思いませんか。

日本で生活する外国人も同じです。どうしてもコミュニケーションする人が限られたり、同じ国の人たちだけで集まってしまったりしがちです。欧米では、その分断が大きな社会問題になっています。


(4)子どもたちの教育(日本語・学力)

文部科学省が2019年に実施した「外国人の子供の教育の更なる充実に向けた就学状況等調査の実施及び調査」によると、外国籍の児童・生徒のうち、6人に1人(約16%)が義務教育である小学校・中学校に不就学状態になっている可能性があります。

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421568.htm

当然、貧困が連鎖していくでしょう。


(5)日本人と同様の住民としての課題(防災等)

災害が起きた場合、外国人はどんな状況に置かれるのかについて、「広がれボランティアの輪」連絡会議というところで2019年に調査をしました。

コロナ禍のおける状況についても2021年に調査をしました。そのレポートは以下からご覧になれます。

https://www.hirogare.net/suggest/



■政策的な転換

日本における在日外国人政策のターニングポイントは、2006年に総務省が発表した多文化共生推進プランです(2020年に改訂)。

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei05_02000138.html

大きくは以下の4つを推進しようというものです。


(1) コミュニケーション支援

日本語習得支援や通訳・翻訳体制の整備などにより、日本語でのコミュニケーションができない住民を支援する。


(2) 生活支援

医療や教育、労働、防災など、多様な文化背景に配慮した固有の施策を行う。


(3) 多文化共生の地域づくり

啓発イベントや外国人住民自身の地域社会への参画を通して、地域社会全体で多文化共生をめざそうとする意識を涵養する。


(4) 推進体制の整備

上記の施策を推進するための条例や計画、担当部署の設置や部署間の連絡会議等を整備する。

さらに2018年には、「出入国管理及び難民認定法」(いわゆる「入管法」)が改正され、2019 年に施行しました。この法律は、日本に出入りする人全てが対象に、出入国時の管理や、難民の認定手続きの整備を目的としたものです。


まず、「外国人労働者」は以下の3つに分類することができます。

①留学生 週28時間までアルバイトとして労働が可能。
②技能実習生 農業や工場などで働き、最大 5 年間の滞在可能。もともとは、その後母国に帰って身に付けた技術を役立てていくための制度。
③高度人材 医師や教授、外交官など高度な専門知識を要する職業の人。

この他には、「身分に基づく在留資格」をもって働いている人もおり、具体的には、「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」が該当します。


このうち就労ビザがあるのは、原則③のみであり、外国人労働者全体の 20.8%しかいません(厚生労働省「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ)。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16279.html


しかし、少子高齢化や特に地方の人手不足もあり、労働力の確保のために、在留資格「特定技能」を 2 段階で新設したのが今回の改正のポイントになります。


【在留資格「特定技能」の2段階】
特定技能1号
不足する人材の確保を図るべき産業上の 14 の分野(農業・漁業・介護…等)に属する相当程度の知識又は経験を要する技能を持ち、業務に従事する外国人向けの在留資格のことです。最長5年の滞在が許可されていますが、家族の帯同は認められません。技能実習を5年行うと特別技能1号を取得することができ、あわせて最長10年間日本に滞在することが可能になります。

特定技能2号
同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格のことで、こちらは家族の帯同も許可されており、滞在期間の更新も可能です。1号の資格を取得したうえで、さらに難しい技能試験に合格して初めて取得できます。


これは単純労働分野で働くための在留資格を認めていなかった日本にとって、大きな政策転換と言えます。



■今後も日本に来てくれるのか?

日本は今後、生産年齢人口が急激に減少します。

2020年から2060年までになんと約3,000万人が減る予想です。実際、特に地域の産業はすでに、外国人なしでは存続できません。製造業も水産加工業、農業、観光など、現場はすでに外国人頼みです。私たちの生活に欠かせないコンビニも居酒屋も外国人労働者なしでは運営できませんし、トヨタだって自動車を一台も作ることはできません。


当然、日本人の人口が減る分、外国から人を受け入れていく必要がありますが、これからも日本に来てくれるのでしょうか?


かつて日本はアジア唯一の経済大国でしたが、現在は中国・韓国・台湾などの「経済大国」も増え、アジアの国々との賃金格差も縮小しています。今後も、外国からわざわざ今後も日本に働きに、もしくは学びに来てくれるというのは相当楽観的な予測です。


人口減少・高齢化によって人手不足になるのは日本だけではありません。韓国・台湾も、最近で中国も移民受け入れの社会体制を急速に整えつつあります。


50年以上前、スイス人のマックス・フリッシュという人が、「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」と言いました。


私たちの社会を持続させるために外国人労働者を利用するという考え方自体が、持続可能ではないでしょう。私たちにとって、「じぶんごと」度がより強い在日外国人支援という国際協力の活動を一緒に始めませんか?


近々、作り手募集を始める予定です。



この記事を書いた人

理事・事務局員 伊藤 章

IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当

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