「これから」は「これまで」の延長線上ではない(IIHOE川北秀人さんの講演まとめ)

12月5日の国際ボランティアデーに、「組織と地域を持続可能なものにするために~これまでの20年をふりかえり、これからの20年に備える」をテーマにIIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者兼ソシオ・マネジメント編集発行人の川北秀人さんにご講演いただきました。


IVUSAとNPO法人ボランティア活動推進国際協議会日本(JAVE)という団体が共催で行い、った対面・オンライン併用のハイブリッドで実施し、40名が参加しました。


活動に活かすという以上に、私たちがこれから生きていくうえでの「現在位置」を知るうえで、とても大切な内容が詰まっています。より詳しく知りたい人は、最後に書籍も紹介していますので、ぜひ読んでみてください。



● IIHOEとは


● 川北秀人さんプロフィール




「これから」は「これまで」の延長線上ではない 
ボランティアは「適応」(起こった問題への対処)だけでなく「予防」も


1.「持続可能性」よりSustainabilityが問題

● 持続可能性という言葉は、高齢者などに「続けられればいい」というイメージを持たれがちだが、社会は変化し続けるため、今の状態を保ち続けるためには進化が必要。進化するためには、「これまで」と「これから」がどう違うかを知らなければならない。

● これまでのボランティアは、何か問題が起きてからの対応が主だったが、問題が起きないようにする予防もより一層重要になってくる。



2.高齢化の第二幕が始まる

● 1970年に日本は高齢化社会になった(国連が定めたと言う「65歳以上の人口が7%」を超えた)。5年ごとに行われる国勢調査によれば、65歳以上の人口が14%を超えたのが2000年(高齢社会)。21%を超えたのが2010年(超高齢社会)。2020年には28%を超え、世界で初めて日本は「超超高齢社会」(超が2つ付く)になった。

● しかし、65歳から69歳までの高齢者の数は2015年をピークに、70歳から74歳までも2020年をピークに減り始める。

● これらの前期高齢者(65歳から74歳)のうち、要介護3以上は1.1%しかおらず、地域づくりの主力として活躍しているが、この世代が減少するという大きな転換期を迎えていることから、「高齢化第2幕」と呼んでいる。これらベビーブーマー世代がこれから減っていくことになるが、これは世界的な傾向。日本が他国と違うのは85歳以上の人たちが2015年の488万人から2030年には830万人と大きく増えるということ(他の国はここまで長生きではない)。2035年には人口の11人に1人が85歳以上になる。

● 85歳以上の4人に1人が要介護3以上。今後、介護される人が増えるのに、自治会長や民生委員といった助け合いの主力は減っていく。

● 大学生や専門学校生の数も減っていくので、今後は学生ボランティアの数を今まで通り確保していくことは難しくなる。そのため一人当たりの活動時間を増やすことや、活動そのものの効率を高めていく必要がある。

● 人口減少や高齢化だけでなく、家族の人数が減るという「小家族化」も大きな問題。かつて三世代同居が当たり前の大家族が、核家族になった(昭和の最後に行われた1985年の国勢調査で一番多かった世帯は4人世帯)。2010年の国勢調査では、一番多い世帯が単身世帯となり、2020年になると東京では単身世帯の数が50%を超えた(2軒に1軒は一人暮らし)。

● 今後はこれらの単身世帯をいかに孤立させないかという「予防」的なボランティアが必要とされるだろう。

● 空き家率は現在13.6%。2040年には24.1%と4軒に1軒が空き家になると予測されている。今後はワークキャンプに行くときに、だれも住んでいない家を片付けてそこに宿泊するということがあってもいいかもしれない。

● 75歳以上の後期高齢者のみの世帯も2000年の4.2%から2020年は11.9%(9軒に1軒)になり、2040年には15.6%(6軒に1軒)になる。ここまで増えると民生委員の見守りでカバーすることは不可能。

● 自助(家族の単位)が小さくなると、共助をいかに豊かにするかを考えないといけない。たまに災害が起きたらボランティア活動に行くだけでなく、身近な地域の問題にボランティアが予防的にかかわっていくことが必要になってくる。

● 後期高齢者の5人に1人が独居。独居の8割弱が女性。女性は免許を持っていない人が多い。今後は太陽光発電+EV(電気自動車)+自動運転などを組み合わせてモビリティを進化させていくことを、世界のどこよりも早く広く進めなければいけない。



3.インフラ・ハコモノも「高齢化」

● 2012年12月に中央自動車道の笹子トンネルで、天井板が落下し9人が亡くなるという事故が起きた。道路や橋の法定耐用年数は50年だが、笹子トンネルは建設されて43年であり、重点点検の対象外なのにこのような事故が起きたのは国土交通省にとっては衝撃的だった。

● 2033年には法定耐用年数を経過する橋の割合が、全体の3分の2を超える。すべてを建て替えるのは予算的に難しい。東京都府中市では公民館を3館に1館しか建て替えないことを決めた。人間の生命を守る医療や福祉を守るためであり、どの公民館を残すかを決めるためのワークショップを行っている。



4.自治体の負担が増加

● 2005年(平成の大合併の最後の年)から10年で市区町村の歳出は15%増えたが、職員は14%減っている。つまり一人当たりの仕事量(負担)は差し引き29%増えている。

● 市区町村では、今後も福祉やインフラ・ハコモノの更新にかかる予算が増え続けるので、職員を削減するしかないという状態になっている。つまり、国が予算を増やしても、執行できる体制がない。



5.日本の経済的プレゼンスの低下

● かつて日本は世界2位の経済大国であり、アメリカにとっては今の中国のような存在だった。日本のGDPが世界に占める割合は1994年の17.8%をピークに、2020年は5.9%と3分の1になった。IMFの予測では、2026年には5.3%と、1960年代半ば(前の東京オリンピックの時くらい)の水準になる。

● 2026年には中国+インド+ASEAN5(インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナム)のGDPの世界シェアが26.8%となり、アメリカの22.6%、EUの17.3%を大きく上回る。今後はアジアをはじめ、アフリカや南米にも市場をどう広げていくかを考えていかないといけない。

● 自動車の保有台数の予測によれば、2030年までに世界の主要国の中では日本だけが減少する。今後、日本経済は維持するだけでも難しいという認識が必要(この30年、日本のGDPは500兆円で止まったまま)



6.就業率は男性が低下する一方で、女性は増加(女性は忙しくなっている)

● 1995年と2015年を比較すると、男性はほぼすべての年代で就業率が下がっている。70歳から74歳の世代でも、定年延長にもかかわらず40.9%から33.8%に減っている。その理由は自営業の割合が減っているからだと考えられる。

● 一方、女性はほぼすべての年代で就業率が上がっている。特に30歳から34歳の世代は、50.9%から70.3%へと19.4%も増えている。女性の就業率は「M字カーブ」と言われてきたが、昨今ではMの形ではなくなっている。つまり若い女性は忙しくなっている。

● 業種別に見ると、製造業、建設、農林水産業が減る一方で、医療福祉が急増しており、2015年時点で働く女性の20.6%が医療福祉の仕事に従事している。1990年代までは一番従事者が多い業界は自動車部品製造業だったが、今は介護だ。

● 85歳以上人口が今後、2倍になったとして、働く全女性の4割を介護に回すのは不可能。だからこそ、介護予防と介護の現場の生産性を上げることが必要。



7.CO2排出量の限界が近い

● IPCCの最新の報告書によると、このままだと2030年から2052年の間に産業革命から1.5度上昇すると予測されている。オーストラリアやアメリカのカリフォルニア州で史上見たこともない山火事が起きているが、原因は雨が極端に少ないこと。

● シリア難民にしても、もともと豊かな農業国だったシリアでなぜ難民が出るのか?2015年から2018年まで平均の20分の1しか雨が降っておらず、その結果都市部に流入した人たちが、内戦で海外に出ている。

● もし大きな台風が東京を直撃し、高潮と重なったら東京中の下水のポンプを稼働させたとしても逆流する危険がある。このようなリスクが高まるのが気候変動であり、予防をしっかりしないと、適応をしても追いつかない

● 産業革命以降の平均気温上昇を2℃未満に抑えるためには、1870年以降の全ての人為起源の発生源からの二酸化炭素累積排出量を約2.9兆トン未満に抑えることが必要だが、2011年までにすでに1.9兆トンを排出しており、残りは1兆トンしかない。



8.暖房・給湯・移動の化石使用をいかに減らすか

● 私たちの世帯のエネルギーは、半分以上が暖房・給湯といった熱供給のために使われており、そのうち灯油を年間2兆円くらい消費している。断熱をしっかりやって、灯油の1割でも木質ペレットとかに置き換えることができたら、海外(産油国)ではなく日本の森のためにお金を使うことができる。家の断熱やペレットストーブのメンテナンスとかもボランティア活動の対象になり得る。

● 一方、世界全体では自動車の使用台数が増えるため、2020年に15%の電動自動車率を2050年までに72%まで高めていく必要がある。

● 政府は2030年までの目標として温室効果ガス46%削減を発表したが、その中で家庭部門は66%削減を求められている。そのためには断熱・再生可能エネルギー・電動化への投資を促すしかない。



9.行事(イベント)から事業へ

● 昔は三世代同居が多く、家族を超えた交流のためにお祭りがあった。しかし一人暮らしが増えてくると、イベントよりも支え合いの方が必要になってくる。

● 自治とは、「自分たちで決めて、自分たちで担う」こと。日本の地域には「担う力」はそれなりにあるが、「決める力」が弱い。「これまででいいじゃないか」という人(特に高齢男性)が多い。

● 地方においても30代・40代で転出よりも転入の方が多い(人口が増えている)地域もある。そこに共通しているのは、その地域の「先輩」たちが、若者にチャレンジを許してくれること。「決めてみる」「やってみる」「ダメならやり直してみる」という三つの「~てみる」が大切。

● 子どもが多かった時代は、地域づくりには盆踊りと運動会をしていればよかった。しかし、住民減少・高齢化が進んでくると、地域の生活必須サービスを担うことが地域づくりの目的になる(行事から事業へ)。



さらに詳しく学びたい方には以下のような冊子をオススメします。

「ソシオ・マネジメント」第11号

世界初の「超々」高齢都市へ~2030年代の東京に、どう備えるか?~データでみる東京の「これまで」と「これから」

https://officeiihoe.stores.jp/items/5f6c27e88f2ebd3ae239a5f2


「ソシオ・マネジメント」創刊号 増補改訂版

社会に挑む5つの原則、組織を育てる12のチカラ

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「ソシオ・マネジメント」第3号

小規模多機能自治~総働で人「交」密度を高める

https://officeiihoe.stores.jp/items/5e93ee627d78f508282d7d0d


「ソシオ・マネジメント」第6号

【増補版】続・小規模多機能自治 ~地域経営を始める・進める・育てる88のアクション~

https://officeiihoe.stores.jp/items/5e93f102e55028088b5cfbb6



この記事を書いた人


理事・事務局員 伊藤 章

IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当


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