COP26の通信簿(ややマニアック)

英国のグラスゴーで行われた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が現地時間11月13日(日程を一日延長)に終了しました。COPは、「締約国会議(Conference of the Parties)」の略で、「気候変動枠組条約」の加盟国が気候変動(地球温暖化)を防ぐための枠組みを議論する国際会議です。1995年から始まった取り組みで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴って中止された2020年を除き、毎年開催されてきました。


私はこの問題にずっと興味があって、京都議定書が合意されたCOP3(1997年)は、会議をヲチしに行きました。その後、気候変動(地球温暖化)の問題に関する社会的関心は盛り上がったり、冷めたりしてきたのですが、今回は久々にかなり注目されたCOPでしたね。


というのも、2019年から始まった「国際的な脱炭素ムーブ」(日本も昨年、菅前首相が2050年カーボンニュートラルを宣言)以降、はじめて開催されたCOPだからでした。実際、何が決まり、どんな課題を残したのかをざっくりと整理してみたいと思います。


日本政府としてのまとめは以下のサイトを見てください。



1. 1.5度目標

今回のCOPの成果文書(合意した内容)では世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意するとしました。

2015年に採択された「パリ協定」では、「気温上昇を2度未満に保つとともに、1.5度に抑えるよう努力する」とされています。つまり、2度が死守目標、1.5度が努力目標ということですね。しかし、最新の科学的知見や近年の気候変動への危機感の高まりもあり、今回の合意の表現は一歩踏み込んだ(?)ものになっています。

「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意する」

…。



2. 石炭

今回、最も議論が分かれたのがこの問題です。当初の合意内容案は、石炭火力発電について「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な廃止(phase out)のための努力を加速する」というものでしたが、インドが「廃止(phase out)」ではなく、「削減(phase down)」という表現に変更するように要求しました。


当然、EUやマーシャル諸島といった島嶼国家は、「石炭に未来はない」といって反対したわけですが、COPの議長を務めた英国のビジネス・エネルギー・産業戦略大臣であるアロック・シャルマ氏(インド出身!)は、合意文書を作成することを優先し、声を詰まらせながらインドの提案を受け入れました。


ただインドでは、今も2億人の人たちが電気なしで暮らし、室内における薪や木炭の煙で多くの健康被害が起きています。当然、まずは電力を確保が最優先であり、送電・蓄電などのインフラが整っていない中で、再生可能エネルギーをどこまで導入できるのかという思いもあるわけです。


一方、日本は高性能の石炭火力発電の技術を持っており、将来的に再生可能エネルギーにシフトしていくにしても、その「つなぎ」として日本の石炭火力発電プラントを途上国に輸出するべきではないかという意見もあります。



1. 1.5度目標

今回のCOPの成果文書(合意した内容)では世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意するとしました。

2015年に採択された「パリ協定」では、「気温上昇を2度未満に保つとともに、1.5度に抑えるよう努力する」とされています。つまり、2度が死守目標、1.5度が努力目標ということですね。しかし、最新の科学的知見や近年の気候変動への危機感の高まりもあり、今回の合意の表現は一歩踏み込んだ(?)ものになっています。

「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意する」

…。



2. 石炭

今回、最も議論が分かれたのがこの問題です。当初の合意内容案は、石炭火力発電について「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な廃止(phase out)のための努力を加速する」というものでしたが、インドが「廃止(phase out)」ではなく、「削減(phase down)」という表現に変更するように要求しました。


当然、EUやマーシャル諸島といった島嶼国家は、「石炭に未来はない」といって反対したわけですが、COPの議長を務めた英国のビジネス・エネルギー・産業戦略大臣であるアロック・シャルマ氏(インド出身!)は、合意文書を作成することを優先し、声を詰まらせながらインドの提案を受け入れました。


ただインドでは、今も2億人の人たちが電気なしで暮らし、室内における薪や木炭の煙で多くの健康被害が起きています。当然、まずは電力を確保が最優先であり、送電・蓄電などのインフラが整っていない中で、再生可能エネルギーをどこまで導入できるのかという思いもあるわけです。


一方、日本は高性能の石炭火力発電の技術を持っており、将来的に再生可能エネルギーにシフトしていくにしても、その「つなぎ」として日本の石炭火力発電プラントを途上国に輸出するべきではないかという意見もあります。




3. 資金

発展途上国の気候変動対策を促すため、先進国が資金支援を強化することも盛り込まれました。

パリ協定では、年間1,000億ドルを拠出することになっていますが、2019年時点では796億ドルにとどまっており、2020年以降はCOVID-19で財政支出が増える中、どこまで気候変動対策に公的資金を回せるかは結構大変そうです。先進国の人たちも、「まずは今の目の前の生活を何とかするための支援をしてくれ」と思うでしょうし。


今回は、2025年までに途上国の適応(地球温暖化の影響に対する対応)支援のための資金を2019年比で最低2倍にすることが決まりましたが、このままだと、「約束はしましたが、守るとは言っていません」状態になりかねません。

 

あと、地味に重要なのが、パリ協定のカーボンクレジット問題がようやく解決したのは日本にとって大きいです。ただ、結構ややこしい内容なので、詳しくは以下の記事をご覧ください。



4. 日本の動き

日本からは岸田首相が滞在時間8時間という強行軍で参加し、世界リーダーズサミットでスピーチを行いました。その内容の核は、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、化石燃料ではなくアンモニアや水素などを燃やす発電プラントを導入することで、アジアの火力発電のゼロエミッション化推進を支援するというものです。トランジションとは「移行」、ゼロエミッションとは廃棄物や温室効果ガス排出をゼロにするという意味です。


ちなみに岸田首相のスピーチは以下から見ることができます。



さらにCOPに先立って、第6次エネルギー基本計画と地球温暖化対策計画が10月22日に閣議決定されました。



5. 批判

2019年のCOP25では会場でスピーチした環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、今回の会議を、「政治家や権力者たちが、気候変動の影響を受けている人がいるという現実を、深刻に受け止めているふりをしているだけだ」であると厳しく批判しました。つまり、COPは「グリーン・ウォッシュ」の祭典に過ぎないということです。



ちなみに、今回のCOP会期内に発表された主な政府合意としては、「100カ国超によるメタン削減枠組み」「24カ国による2040年ガソリン車販売禁止宣言」「46カ国による石炭火力廃止宣言」などがあります。


この中で、「ガソリン車販売禁止宣言」「石炭火力廃止宣言」に日本が参加しなかったことで、日本国内でも批判があり、「化石賞」も受賞したわけですが、米国・中国も参加していません。


気候変動問題に対して非常に積極的なバイデン大統領だったとしても、米国全体としてはやはりそこまでのコミットはできないということでしょう。かわりに中国とほぼほぼ無意味な共同声明を出していました。

1.5度目標に対して、「共に取り組むという確固たるコミットメントを思い起こす」って何だよ?忘れていたのか??


これらを見ればグレタさんの批判も頷けることが多いのですが、それとは真逆の「緑の植民地主義」だという批判もあります。これは、気候変動対策の大義名分の下、欧米が途上国の経済発展を制限しているのではないかというものですね。


例えばウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は、2050年カーボンニュートラルを今のような脱炭素方針で進めれば、「アフリカが貧困から脱却する道が阻まれる」と批判しました。


さらにインドは、先進国が2050年に全世界のカーボンニュートラルを強くプッシュするなら、先進国は2050年よりももっと早いタイミングでカーボンニュートラルを達成し、途上国に「炭素スペース」を与えるべき。さらに、途上国にNDC(Nationally Determined Contribution国の排出削減目標)の引き上げを要求するならば、毎年の支援額を1兆ドルにすべきだと主張しています。


これは先進国内でも脱炭素のコストを「誰が」「どのくらい」負担するのかということで議論が大きく分かれる問題です。再エネ導入のための賦課金を電気料金に上乗せすることで値上がりした電気料金は、より貧しい世帯にとって負担になるという意見とかが代表的なものですね。



6. まとめ

パリ協定は、そもそも「各国が削減目標を自主的に設定してそれぞれ頑張って」という緩い枠組みだからこそ合意できたというものがあります。そこから踏み込んだ国を超えたルールを作ろうと思ったら、それは簡単ではないでしょう。


その中で合意文書(グラスゴー気候協定 Glasgow Climate Pact)が採択されただけでも、一定の成果はあったと言えるのではないでしょうか。少なくても直前のG20ローマ・サミット(10月30日・31日)の合意よりは前進しました。特に、当初から後退したとはいえ「石炭火力削減」が盛り込まれたのは画期的なことでした(特定のエネルギー源や発電方法に言及するのはCOPでは異例)。



ただ、気候変動問題は単体で存在しているのではなく、SDGsのゴールを見ても分かるように他の課題と密接にかかわっています。


例えば今、世界的なエネルギー供給不足で日本でもガソリンの値段が上がっていますが、その背景には石油や天然ガスに対する投資の停滞があります。脱化石燃料のトレンドの中で、回収に時間がかかるこれらのプラントに投資するのはリスクが高く、投資を控えているわけです。しかし、エネルギー・電力不足になれば、ゴール8(経済成長)やゴール3(健康・医療)に大きな影響が出ます。


問題の全体像を網羅するのがSDGsの重要な理念の一つです。「環境原理主義」(私も昔はそんな感じでした)に陥ることなく、他の問題との連関性を踏まえた議論や政策決定がますます必要となってくるでしょう。




この記事を書いた人

理事・事務局員 伊藤 章

IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当

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