多くの賛否両論があったものの、何とか開催された東京2020オリンピック・パラリンピック。日本選手の活躍とメダルラッシュもあり、「いろいろあったけど開催してよかった」と思っている人がアンケートを取ると一番多くなるそうです。
では、オリパラのボランティアはどうなったのでしょう?オリパラのボランティアに対する事前研修を担当された、日本財団ボランティアサポートセンターで事務局長を務める沢渡一登さんにお話をお聞きしました。沢渡さんは、ご自身も静岡県でオリンピックの自転車競技におけるボランティアリーダーをされました。
■コロナでボランティアの存在意義が問われる
ボランティアの特性を考えれば、今回の新型コロナウイルスのような社会的な危機の中では、まずボランティアが率先して動かないといけなかったのではないかという思いがまず私にはあります。新しい社会課題に対して、「先駆性」といわれるように真っ先にアプローチするのがボランティアではないでしょうか。
イギリスでは、ボランティアが立ち上がって、高齢者の買い物のサポートやワクチン接種をやったともいわれています。日本ではボランティア活動すら自粛になり、危機の中で十分に動けなかったのは残念です。
その中で、今回の東京オリンピック・パラリンピックには7万人(地方でのボランティアも入れるともっと多い)のボランティアが活動しましたが、その一方で自粛を迫られている活動も多いのも事実です。ただ、そのような賛否両論や感染リスクがある中でも多くのボランティアが参加し、頑張ってくれたのは素晴らしいことでした。
■日本のボランティア文化を一段階引き上げるきっかけ
今までのボランティアのイメージとしては、「困っている人を助ける」という奉仕性や他者性が強いものでした。それに対して東京オリンピック・パラリンピックのボランティアはちょっと性質が異なるものです。
3年前からボランティアの募集が始まったときは、「なぜ商業イベントにボランティアをかかわらせるのか?」「やりがい搾取」といった多くの批判がありました。8万人の募集枠でしたが、そんなに集まるわけないと言われていました。
しかし、実際は20万人を超える応募がありました。これは日本のボランティアに対する考えや文化が変わってきた一つの現れなのではないでしょうか。「楽しい」「仲間を作りたい」「多様性について学びたい」「競技について知りたい」といった、奉仕性とは違うもう一つのボランティアの側面がクローズアップされたのです。
■それでも7万人以上が参加
今回は無観客での開催ということが急遽決まったことがあり、「フィールドキャスト」(大会ボランティア)の最も大きい役割であった「観客のサポート」がなくなってしまいました。組織委員会としても開会式のリハーサルで各国選手役をやるといった代替の活動を提案し、「予定が合わない」「感染リスクが怖い」といったことで辞退された方もいましたが、7万人以上の方が一回は活動に参加することができました(そのうち1割が外国籍の方)。
私が活動した静岡県は開催時、緊急事態宣言も出ておらず、有観客での実施でしたので、会場でのチケットの確認や手荷物検査の促しをしました。宿泊場所から会場までもユニフォームを着ていくのですが、道中で罵倒されるのではないかとヒヤヒヤしていました。
ある時、「あなたたちのおかげで開催できている」と感謝の言葉をかけていただいたこともありました。コロナがなければ、このような交流が東京をはじめ各地でできたのだろうと思うと、なんとも複雑でした。
一方、「シティキャスト」といわれる都市ボランティアの方は、ほぼ活動がなくなってしまったわけですが、それでも旅行コミュニティプラットフォームのAirbnbとタイアップして、オンラインで都市の魅力を発信することをするといった取り組みもありました。
新型コロナウイルス対策に関しても、医療関係者や専門家の方にも入っていただいて教育プログラムを作り、PCR検査や手洗い、消毒も徹底した結果、クラスターは発生しませんでした。しっかりと感染症対策をすれば、この規模の対面のボランティア活動も可能であることを示せたのは大きいのではないかと思います。
これらのノウハウもオリンピック・パラリンピックの「レガシー」(今後につながる社会の財産)として残し、社会に還元するようにしていきたいですね。
■これからが本番
今回の7万人以上のボランティアは一つの重要なレガシーです。
彼らがスポーツボランティアだけにとどまらず、災害対応をはじめとする様々な社会課題解決にかかわってもらえるような人材としていかにプールしていくかがカギだと考えています。
それに関しては2012年のロンドン五輪が一つの成功モデルだと言われているのですが、「ロンドン・アンバサダー」と言われるその時のボランティアは、継続的にマラソンや年末年始の花火大会といったイベントの運営にオリンピックの時のユニフォームを着てかかわっています。
その中で、新しいボランティアをどんどん入れていっているのも注目すべきことです。枠組みはロンドン五輪のレガシーなのですが、その中で新陳代謝を促し、メンバーが固定化していかない工夫をしており、今では五輪に実際にかかわった人は2~3割になっています。
日本でも10月9日にボランティアに対するサンクスイベントを行われ、彼らが今後も活躍していけるプラットフォーム「ぼ活!」も立ち上がりました。
▼詳しくは
「ぼ活!」は、AI(人工知能)を活用し、個人の興味・関心や能力に応じた最適なボランティア活動の機会を提供しようというものです。そして、様々なスキルを習得できる独自のセミナーを実施するとともに、記事を通じてボランティア仲間の活動の様子や思いも発信していきます。
どなたでも登録できますので、ぜひ皆さんも参加してみてください。
【沢渡さんプロフィール】
1982年、群馬県生まれ。日本財団に入会後、福祉関係の助成金の審査を担当。突出した才能はあるものの現状の教育環境になじめない子どもたちを支援する「異才発掘プロジェクト ROCKET」の立ち上げなどに携わる。東日本大震災の際は、発生直後から現地に入り、1,000人を超える学生ボランティアをコーディネート。2017年9月の日本財団ボランティアサポートセンター設立時より現職。
この記事を書いた人
理事・事務局員 伊藤 章
IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当
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