“レジリエンス”ってなんだ?

12月より若者の災害対応力向上キャンペーン「Youth for the Resilience」(略称Y4R)がはじまりました。 

このキャンペーン名に出てくる“Resilience”。


 「聞いたことない」 

はたまた 

「聞いたことはあるけど?」
「分かるような分からないような」
といった人も多いのではないでしょうか。  


今回はこの“レジリエンス”とは何か?ということについてまとめていきたいと思います。
ただし、まとめきれないほどに広く活用されている概念のため、今回は大まかな話に留めますので(レジリエンスを愛する私としては残念ですが…)、知りたい方はぜひぜひ調べてみてください。

▼「Youth for the Resilience」東日本大震災から10年。若者の災害対応力向上キャンペーン



■“レジリエンス”とは? 

“レジリエンス”と聞いて思い浮かぶものはありますか? 

2020年11月、正式運用された世界初の民間有人宇宙船クルードラゴンの打ち上げの際にその機体が「レジリエンス」として紹介されたことを思いだす人も多少はいるかもしれません。(ニュースを見ていれば…!! )

ただ、たいていの人は画、語彙、などなど、思い浮かぶものが少ない、なじみのない言葉かもしれません。


レジリエンスとは、「弾力」「復元力」「回復力」といった意味を含む言葉ですが、日本語において適切にすべてを言い表せる言葉がないこともあり“レジリエンス”というカタカナ表記で使われることがほとんどです。 


物理用語から始まり、環境(生態系の保全と回復、予防)、心理学(トラウマ体験後の回復に影響する要因)でその概念を適用した研究がなされ、その後時代の要請もあり、多くの分野に広がっています。

ですので、それぞれの分野やテーマにより様々な定義が存在していますが、そのエッセンスを集約すると「強い風にも重い雪にも、ぽきっと折れることなく、しなってまた元の姿に戻るように、何があってもしなやかに立ち直れる力」と言えるのではないかと『レジリエンスとは何か:何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会をつくる』(枝廣淳子 2015,p14)では紹介されています。 


ちなみにロケットに“レジリエンス”と名付けられたのも「コロナ禍の困難な状況の中でもお互いに協力し合って、元の状況に戻していく力(=レジリエンス)にならないか」という想いがあってのものだそうです。  


▼「困難から立ち直る力に」‐野口飛行士ら「レジリエンス」号で宇宙へ‐(三菱電機、コラム:読む宇宙) 

http://www.mitsubishielectric.co.jp/me/dspace/column/c2010_1.html


■実はスゴい?“レジリエンス”:時代は“サスティナビリティ”から“レジリエンシー”へ 

この“レジリエンス”という概念は、2010年代初頭から、世界的に注目を集め、日本でも2015年前後でちょっとしたブームみたいなものがありました。 

なぜ注目を集めだしたかというと、様々な面において、「世界がますます不安定になり、不確実性が高まっている」ことから。 


たとえば、「VUCA(ブーカ)」という言葉を知っていますか?
社会を形作るものや気候が大きく変化をしていく中で起きている、不安定さ、不確実性、複雑性、曖昧さに対応するには、一部的な解決策を取るのではなく、全体を捉えるとともに「何があってもしなやかに立ち直れる」ようにならないと対応できないのではないか、ということから、“レジリエンス”という概念は一部の学問分野だけでなく、社会全体にとって重要なものとして訴えられ、取り入れられていっています。 


持続可能な社会であるためには、その前提として、レジリエンシーが必要!ということですね。 


■日本と“レジリエンス” 

日本で“レジリエンス”の大切さが実感される大きな転機となった出来事は何か、というと、言わずもがな。「東日本大震災」でした。 

想定はことごとく覆され、ハードを拡充して「防ぐ」という方策が効かない事態。 

便利で効率的で快適な生活を支えていたシステム(仕組み)が、何かあったときにどれだけ脆弱であるかを痛感させる出来事となってしまいました。 


これを受け、国としては「国土強靭化計画」の取り組みを開始。「東日本大震災は、これまでの「防護」という発想によるインフラ整備中心の防災対策だけでは、限界があることを教訓として残した」として、インフラ整備に象徴されるハード対策のほか、災害リスクや地域の状況に応じ、防災教育などの【ソフト対策】をこれまで以上に重視することが必要であるとしています(内閣官房,国土強靭化とは?,p6)。 


現在、国土強靭化計画については、行政が取り組みやすいであろうハード面からの対策がやはり目立つという課題もあげられていますが、ソフト対策の重要性にスポットを当てたということ自体が大きな転機となっているのではないでしょうか。ソフト対策、例えば防災教育が「より広い人々の動きや取り組みをどれだけ生むことができるか」ということにかかっているということを思うと、ソフト対策をいかに進め、災害で折れないしなやかさを手に入れることができるかどうかは私たち一人ひとりにかかっている面も大きいということなのかもしれません。 


■災害レジリエンス

「災害が起きた後にしなやかに回復できるようになるためには何が必要か」という、災害に対するレジリエンスを“災害レジリエンス”とし、構築するための研究や提言が多くされています。  


ある研究では災害レジリエンスについて、発災から復旧に至るまでの構造から、

いかに被害を低減させるか、

いかに復旧活動を迅速に開始するか、

いかに効率的・効果的に復旧活動をするか、

の3つの要素それぞれに対してアプローチをすることが大切であると紹介しています(小室 2018)。 

“レジリエンス”という言葉の意味からとらえると、②復旧活動開始や③復旧活動完了の時点に視点を置きたくなるかもしれませんが、「レジリエンスを高める」と言ったとき、【予防】も入る、ということは、とても大事な視点。 


「被害が小さければ回復も早い。ということは、回復力・復元力(レジリエンス)が高い状態にするということは、【被害を小さくすることも大事】」ということ。 



ちなみに、これは発災時の社会全般の機能の回復の図ではありますが、個人に置き換えてみても同じことが言えるのではないでしょうか。


まずは、いかに命を守り、いかに受ける被害を最小限にとどめるか。

次いで、いかに生活を元に戻していくための行動開始を早められるようにするか。

そして、いかに元の状態に早く戻るか。  


では、私たち個々人がまずできることは何か? というと、まずは「いかに被害を低減させるか」というところ。 「誰かの被害」ではなく「自分の被害」を、です。 



■さいごに

現実社会は、災害だけではなく、ちょくちょく「想定」を超えていってしまいます。

今置かれている、コロナ禍もまた、そうですよね。
コロナ禍の予測・想定は非常に難しかったと思います(「インフルエンザの爆発的拡大」などというテーマで起こり得る危機としてリストアップし備えていた国もありますので100%無理ではなかったのかもしれないという意味にて「難しかった」)。 

しかし、災害大国日本で生きている私たちにとって災害は、予測されていて、かつ、結構な確率で降りかかるリスク。 


東日本大震災という大きな出来事からもうすぐ10年。
この機会に、自分自身と災害、について考え、自分自身の被害を減らす一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
いざ、災害という外圧に襲われたときにも、生き延び、しなやかに立ち直っていけるように。 


▼引用文献・参考文献
【本】
枝廣淳子(2015)『レジリエンスとは何か─何があっても折れないこころ,暮らし,地域,社会をつくる─』東洋経済新報社 


【論文ほか】
内閣官房『国土強靭化とは?~強くて、しなやかなニッポンへ~』 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/pdf/kokudo_pamphlet.pdf

小室達章(2018)災害レジリエンス研究の構図と課題.金城学院大学論集、14-2
https://core.ac.uk/download/pdf/230923693.pdf

林春男(2016)災害レジリエンスと防災科学技術,京都大学防災研究所年報第59号 
https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/nenpo/no59/ronbunA/a59a0p02-2.pdf 




【この記事を書いた人】

IVUSA事務局

大坪英里奈
IVUSA17期卒で関西事務所勤務。 子どもの教育支援事業や新潟県関川村・三重県熊野市での地域活性化活動を担当。プロジェクト・組織マネジメントでの業務分野としては“アド”をこっそり担当しつつ、学生組織運営のサポートもしている。 実は、トレーニングを受けたカウンセラーだったりする。 なので、レジリエンスとの出会いは心理学的研究から。出会って以来、知るほどにレジリエンスの概念が大好きになっている(恋人か)。
 (写真:プロジェクト帰りに学生たちがプレゼントしてくれたバースデーケーキとともに)  

0コメント

  • 1000 / 1000