年金はいつまでもつか?


今、日本における選挙の争点のトップにくるのが「年金・社会保障」。高齢者の人たちにとっては、まさに自分たちの生活に直結する問題であり、介護している子どもの世代(40代とか)も関心度は高いです。 

学生の皆さんも、「自分たちは将来、年金貰えるのかな?」と漠然とした不安を持っている人が多いのではないでしょうか。今回は、公的年金の今後を考える上で基礎的な知識を紹介していきます。 


■2,000万円足りない問題の余波? 

「年金が持つかどうか」については5年に一度、財政検証が行われており、その結果が2019年8月27日に公表されました。前回公表されたのは2014年6月3日だったので、今回はそれよりも3か月近くも遅くなりました。年金の給付水準の低下見通しが発表されると、7月の参議院選挙に悪影響を及ぼすことを政府・自民党が警戒したので参議院選挙後にしたという指摘が多いです。 


さらに、6月には「公的年金だけで暮らすには、2,000万円の貯蓄が必要」という金融庁審議会の報告書も様々な波紋を呼んだのも記憶に新しいところです。 



■よく聞く「100年安心プラン」って何? 

もともと、「100年安心」という言葉を最初に用いたのは、小泉政権当時の公明党です。2003年の衆院選に向け、「年金100年安心プラン」を提案。同党の坂口力厚生労働相(当時)のもとで翌2004年に公的年金制度改革を実施しました。 


ここで日本の年金制度についてのおさらいです。日本では、自分が納めた保険料を後で受け取る「積立方式」ではなく、その時の現役世代が受給世代を支える「賦課方式」を取っています。 当然、少子高齢化が進めば「支え手」が減り、「支えられる側」が増えていけば、現役世代(つまり皆さん)の負担は際限なく膨らみかねません。 


そこで2004年の改革では現役が負担する年金保険料率の上限などの枠組みを決めてしまい、保険料収入と積立金、国庫負担でまかなえる範囲で年金を支給する仕組みにしたのです。 年金制度が始まった頃は、現役世代が多く、高齢世代が少なかったので、年金財政に余裕があり積み立てることができました。それを運用したり、切り崩したりして今の高齢者に年金を払っています。 



(出典:厚生労働省)


そして支給額を調節するために導入されたのが、現役世代の減少や平均余命の伸びにあわせて、自動的に年金水準を引き下げていく「マクロ経済スライド」という仕組みです。 保険料収入や積立金などの財源と年金給付がつり合い、向こう100年間の年金財政の安定が見込めるまで、支給水準を下げていくことも決めたのです。 

その死守目標は、現役世代の平均賃金に対し、公的年金の受取額がどの程度の水準にあるかを示す「所得代替率50%です。なお2019年度の所得代替率は61.7%でした。  


■いつ積立金は枯渇するのか? 

財政検証は、経済成長率だけでなく物価上昇率、賃金上昇率、運用利回り、経済成長率、出生率、平均寿命、高齢化率など様々な要素を踏まえた上のものなので、なかなか分かり難いです。 


興味のある人は、 https://www.mhlw.go.jp/content/000540198.pdf に結果のポイントが載っています。 ちなみに実質成長率がマイナス0.5%という想定シナリオにおける最悪のケースだと、2043年に所得代替率が50%になり、2052年には積立金がなくなって完全な賦課方式に移行します。その後、保険料と国庫負担(税金)で賄うことができる給付水準は所得代替率36~38%程度となるようです。 



ただ、2004年の給付水準の低下想定よりも、今の高齢者はたくさん貰っているという現実もあります。 

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/8677.pdf



数が多い団塊の世代が想定よりもたくさん貰えば、当然年金の積立金の枯渇は早くなりますよね。今回、この記事を書くためにいろいろ調べたのですが、2030年代には積立金が枯渇すると警鐘を鳴らしているネットの記事が多かったです。 


■税金を上げるか、国債を発行するか? 

10月から消費税が10%に上がりますが、その増税の目的は年金をはじめとする社会保障の財源の確保です。さらに消費税を上げることが政治的にしばらく難しければ、皆さんの給料から天引きされる社会保険料を上げるか、国債をさらに発行するしかありません。もしくは、法人税を上げる・累進課税を強化して「金持ちから取る」という選択肢もあります。


このように、経済成長する力をなるべく損なわないように、いかに持続可能で公正な負担の仕組みを作るのかが、日本の最大の課題なのです。 



この記事を書いた人


事務局長 伊藤 章

IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当

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