7月21日、参議院選挙がありました。皆さんは選挙に行きましたか?
今回は、参議院選挙の結果から見えてくるものを分析してみようと思います。
さて、ニュースやSNSを見る限り、与党側も野党側も「勝利」を宣言しているようです。
「改選議席(124)の過半数を得た」「改憲勢力が2/3を占めるのを阻止した」「政党要件を守れた」…など、その勝利の定義にはいろいろあるでしょうが。
ザックリ言えば、「消費税増税を出しながらも、与党側が議席をそれほど減らさずに済んだ」と言えます。
■れいわ新選組の「ひとり勝ち」
その中でも際立ったのが、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」の躍進でしょう。山本太郎氏の比例区における個人得票は99万票を超えてぶっちぎりの一位。2名の国会議員を誕生させ、政党要件も満たすこととなりました。リベラルな知識人たちは、この前の衆議院選挙で枝野幸男氏が立憲民主党を立ち上げた時以上の熱狂で、れいわ新選組を歓迎しています。
この件はネットメディアを中心に賛否両論大いに盛り上がったわけですが、IVUSAの会員に研修やワークショップで「れいわ新選組知っている?」と聞くと、知らない人の方が多く、リアルとネットでずいぶん温度差があるのも事実です。
その主張を端的に要約してしまえば、「あなたの生活が苦しいのはあなたの責任ではなく、誤った経済政策のせいであり、消費税は凍結じゃなくてゼロにします。積極的に財政出動して、暮らしを豊かにします。その財源は、国債の発行で賄います。デフレ下で国債発行しても問題はないです」といったものです。
詳しくはこちらから▼
これらの「反緊縮」と言われる主張は、欧米で台頭する「左派ポピュリズム」そのものと言えます。米国で「グリーン・ニューディール(化石燃料を全廃して、全部再生可能エネルギーにするぞ!)」や「MMT(現代貨幣理論)」を唱えるオカシオコルテス下院議員、前回の大統領選で旋風を巻き起こしたバーニー・サンダース上院議員、イギリスのジェレミー・コービン労働党党首、フランスのイエロー・ベスト運動などがその例です。
ちなみにMMTはIVUSAの研修の名前みたいですが、今話題になっている経済理論で、「デフレ下では財政赤字は問題ないので、インフレになるまでどんどん国債発行して財政出動しよう」みたいな考えです。今回の参議院選挙期間中に、提唱者のステファニー・ケルトン教授(ニューヨーク州立大学)が来日していましたね。
■左からのポピュリズム
政治学者の吉田徹・北海道大教授は「欧州で台頭する左右ポピュリズムを分かつもの」(週刊エコノミスト、2017年2月7日号)で以下のように分析しています。
「左派ポピュリズムおいては財政主権や再分配、右派ポピュリズムにおいては国民主権や反グローバル化が唱えられる。こうした主張は、08年のリーマン・ショックと続く10年のユーロ危機を経て、既成政党批判と反緊縮財政、金融・財政主権の回復、場合によってはユーロ圏からの離脱という政策・言説でもって、両極ポピュリズムは共通の立場をとることになる。このような政治的主張は、格差や貧困の進展、労働市場からはじかれ、没落の恐怖におびえる高齢者や中間層、高い失業率にあえぐ若年労働者層の支持を集めることになる」
日本では、ポピュリズムというとトランプ大統領やブレグジット(英国のEU離脱)など、ナショナリズムと近い「右派ポピュリズム」を思い浮かべることが多いですが、当然左派もあります。これらの主張は、既存の左派(リベラル)政党(立憲民主党や共産党、社民党)もしてきたわけですが、れいわ新選組はより「振り切った」政策を出してきました。
そして、もう一つ大きな違いとしては、「非エスタブリッシュメント性」を前面に出してきたということではないでしょうか。「エスタブリッシュメント」とは、既存の体制・エリート層のような意味です。
山本氏自身、「メロリンQ*」でブレイクした決して一流とは言えない芸能人だったわけですし、今回比例区で当選した2名も筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者である舩後靖彦氏と、重度身体障害者の木村英子氏でした。
「頭でっかちなエリートでは分からない庶民やマイノリティの痛みを知った私たちだからこそ分かることがある!」という主張は、「右派ポピュリスト」と目される橋下徹氏にも通じるところがあるかもしれません。 早速、山本氏は衆議院選挙出馬を宣言していますし、しばらくは台風の目になっていくでしょう。
(*間違いなく今の学生は「メロリンQ」を知らないと思いますが、Youtubeで調べると海パン×水泳帽×素肌にローションでキレのある一発芸を披露する若き日の山本氏を見ることができます。)
ただその一方で、選挙区の投票率は48.80%と50%を下回り、1995年の44.52%に次いで、国政選挙としては戦後2番目に低くなりました。また、これまでは既存の野党(特に共産党)に投じていた無党派層の相当数がれいわ新選組に流れたという分析もあります。
■ポピュリズムの背景にある社会の分断
ポピュリズムが生み出される背景にあるのが、今の生活に対する不満と、そして将来に対する不安です。れいわ新選組を熱狂的に支持したリベラルな知識人たちは、同じ土壌から生み出されてきた「NHKから国民を守る党(N国)」が一議席獲得し、政党要件も満たしたことに対して、「民主主義の汚点」とも言わんばかりに口を極めて罵りました。
NHKで流されるN国の政見放送。なかなかシュール。
例えば、古谷経衡氏は、
N国候補らの政見放送をみて、思想もなく、主義もなく、主張もなく、思慮もなく「あはっ、なんか面白ーい!」という、限りなく無色透明の、「政治的非常識層」である。彼らには右か左か、右翼か左翼かという区別は当てはまらない。 N国党の政見放送を見て、「ただただ爆笑して泡沫と笑う」人々は、少なくとも「政治的常識層」である。泡沫に入れても死に票になるだけで意味がない、という判断ができる時点で政治的常識人だ。そういった人々―つまり、投票所にいるはずの、常識を持った人々が急速に消え去り、あるいは彼らの常識という足腰が急激に萎えた結果こそが、N国の1議席である。
と言います。
ただ、有権者を「政治的非常識層」と断じてしまう「上から目線」の批判こそが、それらの層からの反発を生み、結果としてポピュリズムが育つ「養分」になっているのは間違いありません。
何とも「共に生きる」のが難しい社会になってきました。
この記事を書いた人
事務局長 伊藤 章
IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当
0コメント