バーチャルOB・OG訪問 ~オルタナティブな選択をした先輩 その10~

 大学を卒業し、都市部でサラリーマンとして働く人が「ふつう」の今、地方で第一次産業や地域活性化にかかわるという「オルタナティブ」な生き方をしているIVUSAのOB・OGを紹介するこのシリーズ。今回が最終回になります。トリを飾っていただくのは2020年に西伊豆町に移住した高井洋季さん(11期・ブリティッシュ・コロンビア大学出身)です。


 高井さんは現在、西伊豆町役場で地域プロジェクトマネージャーをしつつ、IVUSAの理事・非常勤職員としてIVUSAの西伊豆町での地域活性化の事業やカンボジアの教育支援事業を担当しています。


西伊豆町堂ヶ島、一番最近の家族写真(2023年12月撮影)


Q.移住されたきっかけや理由を教えてください

 私はIVUSAで、学生が社会課題解決に取り組むのを職員としてサポートすることをしてきました。それがコロナでIVUSAの活動が止まってしまったわけです。その時、自分が今までやってきたことを活かせるのは、自分がプレイヤーとして地域に行くことだと思い、転職活動を始めました。内定をもらった会社の一つは、M&Aで地方創生事業を新たに進めているところだったのですが、本社が渋谷のヒカリエにあるんです。「ヒカリエから自分がプレイヤーとして地方創生ができるのか?」という疑問を払拭することができず、そこはお断りしました。

 並行してこれまで携わっていた地域にも連絡を取り、最初に「ぜひ来てほしい」と条件を示してくれたのが西伊豆町でした。長野県飯山市をはじめ他にもいくつか候補はあったのですが、当時県内最年少首長で自分とも年齢がさほど変わらない西伊豆町の町長が、精力的に地方創生に取り組んでいるということもあって、西伊豆町に決めました。額面だけで見たら内定いただいた会社の半分以下でしたが、生活はできる条件だったのでノリと勢いでしたね。

 留学した経験もあるので、移住そのものには抵抗はありませんでした。その時はまだ30代でしたし、IVUSAがずっと活動していた地域なので、顔なじみも多いです。唯一、妊活していたタイミングだったので、そのプレッシャーはありましたが、不思議なもので西伊豆町に来てからすぐ無事に授かることができました。


産まれた直後の子どもの写真、コロナ禍で立ち会えず…


Q.協力隊員としての活動はどのようなものでしたか?

 ちょうどコロナ禍真っ只中での採用ではありましたが、与えられたミッションはいろんなものを繋いで人や事業を呼んできて欲しいというものでした。地域おこし協力隊を所管している総務省の定義によれば、地域おこし協力隊は「都市部から移住」「地域の課題に対して取り組む」「3年後に定住」という三つの要件を満たせばいいという、かなりざっくりとしたものです。実際、西伊豆町の地域おこし協力隊には高齢者へのリハビリテーションを行う理学療法士から猟師をしている人まで様々います。その中で、私は官民連携や関係人口創出を中心に担当してきました。

 西伊豆町は高齢化率が約5割を超え、静岡県の中でも一番高く、町民のデジタルリテラシーも高くないため、移住してきて最初にやったのは高齢者向けのスマートフォンの使い方講座です。またコロナ禍最初の年末には、タブレットを活用したオンライン帰省という事業を展開し、日本テレビのnews zeroにも取り上げられました。

協力隊に来てから最初にやったスマホ教室



静岡新聞にも取り上げていただきました


 他にも、地域おこし協力隊の起業支援をしている東京の会社から業務委託を受けて協力隊員が活動する基盤を作る仕事もしています。

 協力隊といってもやっていることはバラバラですが、まわりの人からは「協力隊」として見られます。そこで、町の広報誌に毎月協力隊員のことを載せたり、Facebookで情報発信したり、隊員個人が自身の活動や町を発信できるように隊員に対してSNSなどの有効的活用の研修を作って、実施したりもしました。

 また、隊員向けに「どこからお金が出ているのか?」「何を期待されているのか」という基本的な情報をまとめた研修やハンドブックも作成し、年2回の面談も実施しています。

 

協力隊仲間と


 事業を進めていくと、様々な価値観・考え方を持った人に出会いますし、当然対立も生まれます。例えば、ヘリの運航事業者と町との協定締結を行い、観光事業でヘリを飛ばしたことがあったのですが、自然豊かな街で化石燃料をたくさん使ってカーボンニュートラルという時代の流れに逆行するという反対などがありました。絶対的にどちらが正しいか白黒つけるのではなく、もちろん西伊豆の環境や自然を大事にしないといけないですが、新しいビジネスも生み出していかないといけないわけです。

 一つ言えるのは、やってみないと分からないということ。いきなり成果は出せないし、繋がりもできません。ふり返りやチェックは必要ですが、何かアクションを起こさないと何も始まらないし見えてこないということを学びましたね。


協力隊で山仕事のお手伝い



Q.西伊豆町での暮らしはどうですか?

 一言で言えば、「思ったより不便ではない」です。もちろんファーストフードとか美味しいラーメン屋とかに行こうと思ったら、そのためにわざわざ出かけないといけないです。でも、新鮮な海鮮丼や、水のいいところで採れた本ワサビを使った蕎麦や、ジビエ料理はわざわざ出かけなくても食べられます。要は都会も田舎もそれぞれにあるものとないものがあるわけです。運転さえ苦にしなければ、1時間で三島市にも行けますし、渋滞もありません。


 人間関係でいえば、陰口が聞こえてしまうのが田舎です。口の悪い人は都会・田舎関係なくいますが、陰口が耳に入るくらいコミュニティが狭いんです。ただ同じ町内でも、住む場所によってかなり違いますね。西伊豆町でも中心街に近いところは赴任者や移住者も多いですし、人間関係もそこまで密ではありません。


 私の住んでいる地域は、帰ったら玄関に野菜が置いてあるくらいのところです。貰ってばかりなのはどうかと思って、実家(横浜市内)に帰省した時にお土産を買って渡したことがあったのですが、「お土産をもらうと、あげづらくなるから止めて欲しい」と言われました。自分が釣った魚や知り合いから大きい魚を頂いたときに、お裾分けをしましたが、それくらいで十分のようです。


貰う魚は全部1本(魚はそれなりに捌けるようになりました)


 こんな感じで理解すれば比較的ストレスなく過ごせます。地域の行事もありますが、難しければ、「参加できない」という連絡をすればいいだけです。それは会社の飲み会に「行けない」という連絡をするのと基本的には同じです。


行きつけの飲食店では、言わずもがな勝手に大盛に



Q.移住や地域おこし協力隊の今後についてはどう考えておられますか?

 これからは移住の受け入れ側の担当をしていくのですが、ただ人を呼ぶだけでなく、マッチングをすることが必要だと考えています。地方は仕事がないと言われますが、観光業をはじめ加工業、保育園、学校、介護・医療などの仕事は普通にあります。住むところとして、空き家もありますが、貸せる状態のものも多くなく、全く知らない人がいきなり貸してもらうのはほぼ不可能なので、つなぐ人が必要です。人と仕事や空き家、店舗物件、耕作放棄地などを繋ぎ、いかに地域内の資源を循環させていくかが重要と考えています。

 その中で、地域おこし協力隊制度というのは大きな選択肢の一つになると思います。

 現在、全国の約1,100の自治体がこの制度を活用していて、約6,000人の隊員が活動しています。総務省は2026年までに1万人にすると言っています。

 協力隊は会社でもなければ、職種でもありません。協力隊という言葉に踊らされず、社会課題を解決したり自分のやりたいことを実現したりしていく一つの手段・選択肢くらいに考えた方がいいと思います。協力隊は特に明確な指示があるわけでもないですし、その活動内容は百者百様です。結果、協力隊に対する評価もポジティブなものとネガティブなものが混在している言わば「ピンキリ」です。

 でも、6,000人の社員がいる名の通った会社があったとして、その全員が仕事できると思います?協力隊も華やかな成功事例ばかりがクローズアップされやすいですが、全くダメな例ももちろんありますし、大多数は地道に頑張っている人たちで、もっと実態が広く届くように情報発信をしていくことが必要だと考えています。


クラウドファンディングも実施しました(100万円の目標に対し232%達成)


Q.会員やOB・OGの皆さんにメッセージをお願いします

 田舎では若さに勝るリソースはないです。新卒でなくても、アラサーくらいの社会経験のある人は引く手あまたですよ。

 地域活性化の活動のリピーターには移住や地域おこし協力隊はおススメです。何か地域に魅力や課題感を感じ活動してきた卒業生は、都会で無理を感じたときに都会にしがみつく必要は全くありません。むしろ地方に出るべきです。IVUSAとしても活動地にOBOGがいるというのは大きいですし、ただ若いというだけでひとつ大きな評価をされることは都会では水商売以外ないと思います。

 田舎から都会に行って、「都会かぶれ」になる人がいるのと同じように、「田舎かぶれ」になる人もたくさんいます。イメージや他人の話で判断せず、合う・合わないはまず行ってみないと分からないので、地域おこし協力隊制度も使って気軽にチャレンジしてみたらどうでしょうか。西伊豆への移住もお待ちしています。



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