連日、ロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れ、中国の露骨な軍拡・拡張路線が高まっていく中で、このままだと日本の平和や安全がヤバいんじゃないかという意見が多くなってきました。自民党の一部からは防衛予算を現行の2倍の10兆円規模(GDPの2%)に増額しようという案も出され、来る参議院選挙の大きな争点になりそうです。
安全保障上のリスクに対応するために2015年に安保法案が改正されたわけですが、その中で「存立危機事態」というキーワードがあります。これは日本が集団的自衛権を行使する際の要件の一つで、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」だそうです。
ところで中国でも北朝鮮でもロシアでもなく、日本を「存立危機事態」にしているものがあります。
それが、「少子化」であり、その結果としての人口減少です。
■一年間の婚姻数過去最低、出生率1.3!
6月3日に厚生労働省が人口動態統計を発表。それによると、2021年に生まれた日本人の子ども(出生数)は81万1604人で、データがある1899年以降で最少となりました。政府の予想より6年早く少子化が進んでいます。
出典:読売新聞 https://news.livedoor.com/article/detail/22318234/
この少子化の加速の要因となったのが婚姻数の減少です。婚姻件数も2020年と比べて7万件近く減りました。その背景に新型コロナウイルスがあるのは言うまでもありません。もちろんそんな統計はありませんが、新規恋愛件数も激減したんじゃないでしょうか。
一人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1.30で戦後4番目の低さです。
日本人の人口が1億人を切るのは2049年と想定されていましたが、それも早まりそうです。
■子育て支援をしても子どもは増えないという「不都合な真実」
少子化対策というと、イコール子育て支援となりがちです。
最近、兵庫県の明石市が泉房穂市長のリーダーシップの下、極めて積極的な子育て支援施策を実施し、話題になっています。
「医療費は18歳までタダ。保育料も2人目は完全無料。セコい要件は課さない。国がやらないので、仕方なく市でやっている」
— K先生 (@K08460030) June 7, 2022
9年連続で人口増を達成している明石市。
泉市長@izumi_akashiが参考人として国会に招致されました。明石市は出生率1.7という脅威的な数字を叩き出しています。#国会中継 pic.twitter.com/fRHzcGaShK
私自身も子育て支援を進めることは大賛成ですし(できれば自分の子どもがもっと小さいときにやって欲しかったですが…)、泉市長の進める政策は基本的に素晴らしいと考えています。ただ、それが少子化対策に効果があるかというと、正直首をかしげざるを得ません。
例えば、明石市の人口動態の推移が公開されていますが、人口や子ども数が増えた直接的な要因は他の市区町村からの「転入」のようです。明石市の手厚い子育て支援を求めて、近隣から子育て世帯が多く引っ越してきたのではないでしょうか。
https://www.city.akashi.lg.jp/soumu/j_kanri_ka/shise/toke/documents/nennkann_r2.pdf
日本は、婚外子(婚姻関係にない男女の間に生まれた子ども)の割合が諸外国と比べて少なく、結果日本の子どもの数は、ほぼほぼ婚姻数に比例しており、一組の夫婦から生まれる子ども数自体はそんなに減っていません。
つまり、少子化の直接的な原因は、「結婚しない人が増えた」という未婚率の上昇なのです。ただ、夫婦が「もう一人子どもが欲しいけど、あきらめる」原因の第一位は子育ての費用の問題なので、子育て支援が少子化対策に効果がないわけでないのでしょうが、それで少子化が解決することは残念ながらありません。
■なぜ結婚しなくなったのか?
このテーマで、ディスカッションやディベートがいろいろできそうです。
昔、IVUSAの研修を担当する学生インストラクターを養成する講習で、「未婚化が男と女のどちらに原因があるか?(どっちが悪いか)」というテーマで話し合いをしたことがありますが、結構盛り上がったというか、激論になりました。
もちろん、経済的に先行き不安というのが大きいのでしょうけど、私としてはそれにプラス以下の2つの原因があるんじゃないかと考えました。
(1) 恋愛結婚が当たり前になった
「恋愛⇒結婚」というプロセスを踏むわけですから、恋愛しない(できない)人はそもそも結婚しません(できません)。
ちょっと古いデータですが(明治安田生活福祉研究所2016年)、20代男子の半分以上が「交際経験なし」だそうです。
昔は見合いや紹介など、恋愛というプロセスを踏まない結婚が結構ありましたが、恋人(パートナー)の有無を聞いただけでハラスメントになりかねないご時世ではまあ難しいですよね。
当然、「結婚している(できている)人はそもそも恵まれているんじゃないか」とか、「今どき子どもはぜいたく品だろ」といった考えも広がってきます。
(2) 情報が氾濫している(特にSNS)
恋愛・結婚・子育てに関する膨大な情報に(好むと好まざるとにかかわらず)触れるようになりました。多くの場合、それらは異性とのコミュニケーションのハードルを上げる方向に(特に男性に)作用しているようです。
例えば、彼氏や夫への愚痴はSNSでバズるコンテンツの一つですが、それを見て「自分もそう思われるんじゃないか」と思う男性も多いのでは。
個人的な話で恐縮ですが、私は昔この漫画を見て、恐れおののいた思い出があります。
女の子がデートの時に何を見ているか?
— 山田玲司 (@yamadareiji) August 3, 2017
91年も今も基本的に変わってませんね。
この漫画(Bバージン)今なら無料で読めます。無料期間はあと数日で終わるので、この機会にどうぞ。https://t.co/SAedy25OMk pic.twitter.com/KMBUiwTQeL
クラブ会やワークショップのネタとしていかがでしょうか?
■それでも東アジアではマシな日本
暗い話が続いたので、最後は希望的(?)な話を。
日本の周りの国々と比較すると、日本はまだ健闘しているみたいです。
【東アジアの国々の合計特殊出生率】韓国 0.81(2021年・暫定値)台湾 1.07(2020年)香港 1.05(2019年)シンガポール 1.1(2020年)中国 1.3(2020年 ただどの程度信頼ができる統計なのかは不明)
ジェンダー平等や社会保障のモデルとして語られることの多い北欧でも出生率の低下と少子化が深刻になりつつあります。
欧米では、特にイスラム系の移民の出生率が高いこともあり(結果、国全体の出生率が高くなる)、移民の存在感が増えていく中で社会的な軋轢も出てきています。
IVUSAも会員数が減少していければ、できるプロジェクトがどんどん減っていくように、構成員の数は、その集団・社会の持続可能性に直結します。
環境問題を考えれば、地球全体の人口が減るのは基本的にいいことですが、人口が増えることを前提していた社会システムを変更するのはなかなか大変でしょう。
夏プロで地域活性化のプロジェクトに参加する皆さん、まずは自分が行く地域の人口の動向をチェックしましょう!
この記事を書いた人
理事・事務局員 伊藤 章
IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当
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