本の紹介『罰ゲーム化する管理職』

 もうすぐIVUSAでは34期選挙が行われます。

 選挙はIVUSAやクラブの代表を選ぶものですが、選挙によって選ばれたクラブマネージャーや役員は、実際は「管理職」としてIVUSAやクラブの組織運営をします。そういった意味では、IVUSAの選挙は行政のトップである地方自治体の首長を選ぶ選挙に近いのかもしれません。

 さて巷では、「若者の管理職離れ」と言われています。さらには、「静かな退職」と言われるキャリアアップや昇進を目指さない働き方の(特にZ世代における)広がりも指摘されています。

 2023年4月に日本能率協会マネジメントセンターが行った調査によると、77%が「管理職になりたくない」と回答しました。その中でも特に女性の管理職への意欲が他の国と比較してもダントツに低いと言われています。


 同様の結果は様々な調査でも出ています。

【パーソル総合研究所の調査】


【産業能率大学総合研究所の調査】


 ただ、若者がキャリアアップに対して消極的かというとそんなことはない、「無理のない範囲でやりたい」という傾向が強いようです。ただ、「責任を持ちたくない」ということはいろんな調査の中で指摘されていました。そうなる大きな要因の一つが、「今の管理職は大変そう」と映っていることです。IVUSAでも「役職をやると大変そう」ということはよく聞きますよね。

 ということで、なぜ管理職は大変なのかを掘り下げた本を今回は紹介します。パーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児氏の書いた『罰ゲーム化する管理職』。タイトルからしてインパクトがすごいですが、書かれているポイントをまとめます。以下の動画もポイントがまとまっていておススメです。私もこの動画を見て本を読むことにしました。

https://youtu.be/Z8ayja70_xI?si=_UItxun5vYQ_GVmy


■管理職の悩み

①組織のガバナンス強化のしわ寄せ

「働き方改革」という言葉をよく目にするようになりました。内容としては、「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」といったもので、

 しかし、主な対象はあくまで一般社員で、そのしわ寄せが管理職にいきます。例えば、部下を残業させないために、その仕事を管理職が巻き取って残業したり、土日出勤したりするという光景はよく見られます。


②部下マネジメントの心理的負担

 メンタルヘルスへの理解が進んだのはいいことなのですが、管理職のその分メンタル不調への対応の負担が増えました。部下に仕事を振ったり、注意したりすることに対しても「ハラスメントと言われるのではないか」と考えて、回避型のマネジメントを取るようになります。


③報われない

 マネジメントの負担は当然給料(手当)という形で報われるわけですが、一般社員との賃金差は長期トレンドでどんどん縮小しています。賃上げするにしても、一般社員や新卒が優先され、管理職は後回しにされがちです。

 また、部下の業務を巻き取って、サービス残業することを考えれば、総合的なタイパは一般社員以下になりかねません。

 ①②については、IVUSAの役職者をした人は身に染みてわかるのではないでしょうか。

 さらに、管理職の方が一般職よりも死亡率が高くなるという衝撃的なデータも紹介されています。他の国では、管理職の方がジムに行ったり、食生活に気を付けたりするといった余裕があるため、死亡率が低いのですが、例外が日本と韓国なのです。


■管理職のバーンアウトに対する誤ったアプローチ

 筆者が誤りと指摘するのは、「管理職の負荷が高いのは、管理職自身のマネジメントスキルが足りないからだという発想」(筆者は筋トレ発想と呼ぶ)です。もちろん管理職自身にとって、マネジメントスキルを身に付けていくことは個人の成長にとってプラスでしょう。しかし組織全体のマネジメントや管理職のバーンアウトを防ぐという目的から見れば、管理職個人の問題にすべてを帰着させるのは不適切です。


 その結果、以下のような結果になります。

・研修が増え、管理職の負担になる(「役に立たない研修ばかり増やす」という不満にもつながる)

・「個人として強くないと(優秀でないと)いけない」というプレッシャーが広まり管理職のハードルが上がる(特に女性が敬遠しやすくなる)

・リーダーが自社にいないと判断した企業は、外部(中途採用)に求めるようになるが、ボトムアップ型のリーダーシップスタイルが主流の日本ではなかなか難しい(白馬を王子様ならぬ「白馬のリーダーシップ待ち」と筆者は揶揄する)



■筆者の提案

「フォロワーシップ・アプローチ」「ワークシェアリング・アプローチ」「ネットワーク・アプローチ」「キャリア・アプローチ」と4つの提案をしていますが、結論はシンプルで、管理職自身の「アクションの過剰」をどう防ぐかということです。管理職向けの新たな施策をする前に、負担となっている「余計なもの」を取り除く必要があるわけです。



■まとめ(結局、管理職になるのは得なのか?)

 メリット・デメリットで管理職の価値を判断するのは筋が悪いということを筆者は認めながら、以下のようにまとめています。


管理職になって増えていった他者と仕事のつながりから、多くの人がそれまで経験していなかった新しい喜びや成長を感じています。コミュニケーションの負荷を上げてしまう多様なバックグラウンドを持った部下という「他者」、相容れないさらに上の上司という「他者」、どこまでもわがままな顧客という「他者」…。管理職になるということは、その断絶があるがゆえに新しい喜びや絆の源泉でもある他者と、響き合う面を増やすことになります。


(中略)

 管理職になるということは、自らの身を「贈り手」の側に置きなおすことです
 与えられるものから、与えるものへ。

 育てられるものから、育てるものへ。

 自力でなんとかする仕事から、「他者とともに」する仕事へ。


 結局、管理職は大変だけと、その分成長でき、世界が広がるよという何とも平凡な結論ではあります(もちろんそのプロセスは精緻ですが)。

 IVUSAの学生の皆さんも、役職者ぜひ挑戦してみてくださいというありきたりなまとめで終わります。読んでいただき、ありがとうございました。



この記事を書いた人

理事・事務局員 伊藤 章

IVUSAの中では管理業務一般と、広報や社会理解学習のプログラム作りをする係。最近は、海ゴミ問題のキャンペーン「Youth for the Blue」も担当






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